【都市伝説】股割りで筋を切った結果「悲惨な再起不能・歩行困難」

股割りは、お相撲さんが筋を切って開脚をできるようにする、というイメージがあります。私も股割りにチャレンジする前は、股割りは「痛い」「苦痛を伴う」稽古、というイメージがありました。私の股割りチャレンジは20年になりますが、正しい股割りの方法は筋を切りません。私が実際に股裂き(またさき)で筋を切った経験をお伝えしたいと思います。

監修:中村考宏

股割り歴20年。MATAWARI JAPAN 代表。柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。えにし治療院院長。【DVD】構造動作トレーニング “股割り”を極める(BABジャパン)、著書「骨盤おこし」で体が目覚める(春秋社)、趾でカラダが変わる(日貿出版社)、しゃがむ力――スクワットで足腰がよみがえる(晶文社)、“動き”のフィジカルトレーニング(春秋社)他多数。メディアUP!−名古屋テレビ【メ〜テレ】で股割り紹介。テレビCM股割り「割る」出演。BABジャパン 月刊秘伝10月号「股割りの秘密」【前編】【後編】。他プロフィール詳細

股割り歴20年、筋断裂・末梢神経麻痺からのスタート

私は小学校4年生から大学、柔整専門学校まで柔道をしていました。小学校のときは、体が硬かった記憶はありませんが、高校大学の柔道部のときは、筋トレとストレッチの時間が苦痛でした。私はいつもストレッチから逃げて回るほど体が硬かったのです。その後、柔道から離れ、運動をしなくなった私は、柔道で体を酷使していますので腰痛や体の不調に悩まされるようになりました。当時は、いろいろな先生にお世話になりましたが、結局、決め手になるような改善はなく、不調続きでした。そして、結婚し、子供ができた頃から、休みの日はアウトドアにでかけるようになりました。子供と一輪車に乗って遊んだり、山歩きに出かけたりするようになったからでしょうか、運動をするようになってから腰痛ばかりでなく、体の不調が軽減したようでした。そのころの経験が、現在の股関節の実践研究をはじめるきっかけになりました。どれだけ筋肉をマッサージしたでしょう、どれだけ体中に鍼を刺したでしょう、どれだけ先生方に手をかけてもらったでしょう、それでも決め手となる改善がなかったものが、自らの運動で激変したのですから私の治療概念は180度転換しました。

開脚90度で後ろにひっくり返る体の硬さ、一大決心から奈落へ

治療院を開院してからは、一輪車やランニングで積極的に体を動かしていました。しかし、体の硬さがネックになっていました。それは、来院された患者さんに予防のためのストレッチを紹介しても、体の硬い私には指導ができませんでした。当時は開脚90度で後ろにひっくり返るレベルでしたから全く説得力がありませんでした。そのような理由があり開脚は気にしてやっていましたが、開脚前屈ができるようになる気配はりませんでした。歯がゆい思いをしていた私はあるとき「何が何でも開脚前屈をできるようにするという」一大決心をしました。その日から私は股割りに取りつかれました。土曜日の仕事が終わり自宅に帰って午後から就寝まで股割り、日曜日起床後から就寝まで股割り、月曜日仕事の前に股割り、昼休み股割り、帰宅後から就寝まで股割り、これが2週間くらいつづきました。1つのことにこれほど集中したことは初めての経験でしたが、やればできるもの、開脚前屈がある程度の形になりました。あるとき、治療院に体操競技の顧問の方が来院されました。その方は私の股割りをみて本格的だといってくれたので、調子に乗って開脚前屈をさらに広げようとしました。今思えばそれが股裂き(またさき)になっていたのだと思いますが、お尻と太ももの付け根でパチーン!と、筋が切れる音がしました。その数時間後には足が垂れ下がり、歩行が困難な状態になってしまったのです。


股割りで筋を切った結果、失われた足の感覚を追い求めて

2004年11月のある夜、私は暗闇の中で「感覚の異常」という恐怖におびえていた。私の右脚は、私の意識に反応することなく、無意識と無の合間から、かつては私の脚だったことを忘れ去られまいと、もがき苦しみ、私の身と心にこれまでに経験がないほどの恐怖を投げつける。私の右脚は、私の右脚という形をした、ただの肉の塊だった。

なぜ、このような事態になってしまったのだろうか。原因は、私が180度開脚に憧れ、無理な開脚ストレッチを繰り返し、結果、ある一線を越えてしまったことにある。カラダの構造にそぐわない無理な動きによって、神経回路がショートし、末梢神経麻痺(まっしょうしんけいまひ)という状態に右脚が故障してしまったのだ。故障の瞬間はいまでもよく覚えている。大きく開脚をして、床に胸をつけて大腿の筋肉が張り裂けんばかりにグイグイ伸ばしきった。その瞬間、伸張限界を超えた筋肉が一気に収縮、臀部あるいは大腿のつけ根辺りでバチンッと何かがはじけた。直後、臀部の激しい痛みとともに右の足指の感覚が薄れはじめ、次第に右足首のコントロールを失う。数時間後には右足が、ぷらんと垂れた。筋損傷だけにとどまらず末梢神経に障害がおきた。おそらくL4(腰神経)〜S1(仙骨神経)のレベルで故障し、足の指は曲げ伸ばしができず、腿も動かなかった(足の指の伸筋と屈筋・下腿の伸筋と屈筋が運動不能「完全麻痺」、膝の曲げ伸ばし(屈筋)はわずかに運動可能だった。大腿前面はしびれていた。一般には、麻痺としびれが混同されていることが多い。麻痺は、神経の障害により身体機能の一部が損なわれる状態のことを言う。たとえば、運動しようとしても、四肢などに十分な力が入らず、感覚が鈍く感じる状態(不完全麻痺)。またはまったく動かすことができない。感覚がまったく感じられない状態(完全麻痺)。つまり麻痺とは、運動障害であり、しびれは感覚の異常なのだ。

その日の夜から感覚の異常という恐怖に襲われた。感覚の異常には、異常感覚、錯感覚、知覚過敏、無感覚などがある。異常感覚とは、外的刺激によらない感覚の異常であり、誘因なく熱さや痛みなどを感じることだ。しびれなどがそれである。鎖感覚とは、外的刺激による感覚の異常であり、触られただけで冷たく感じたりすること。知覚過敏とは、感覚を強く感じてしまうこと。感覚鈍麻とは、感覚を弱く感じること。無感覚とは、感覚をまったく感じないこと。

右足の感覚の異常は皮膚分節から、これがどの神経レベルの故障なのか、理解する手掛かりになった。末梢神経は脳および脊髄より出て全身に分布する。脳からです神経を脳神経、脊髄から出る神経を脊髄神経という。末梢神経系は、機能的には運動や感覚機能を司る体性神経系と各種の自律機能を司る自律神経系とに分類される。脊髄神経の感覚神経と、その神経によって支配される皮膚領域には規則的な対応があり、皮膚の脊髄神経支配領域が分節性に配列している。これを皮膚分節という。

感覚の異常は、決まって暗く静まる夜中に激しく襲ってきた。右足の末端は、完全に麻痺して、ただの肉の塊のはずなのに、ジンジンと脈打つ鼓動とともに錐で突き刺すような鋭く激しい痛みが迫ってくる。それはまるで灼熱と極寒を行き来しているようであり、薄手のタオルケットが足先に触れたためか、または痛みからなのか、それとも恐怖なのか、私は叫びながら飛び起きて、暗い部屋に明かりをともす。横になっているよりも壁を支えに立っている方がましな気がして、右脚は接地できないながらも、一晩中でも立っている方がいくぶん安心だったそれでも朝日が差し込むころになると恐怖は和らぎ、わずかながら仮眠をとることができた。日中は垂れ下がるつま先をマジックバンドで背屈に固定し、家内の肩をかりて移動した。感覚を感じないぶら下がった右脚では、カラダを支えることすらできなかった。私のものなのに私のものでない脚が右下方にぶら下がっていて、運動は起こせない。足の位置も、足にかかる抵抗、重量もわからない状態では、右脚を何かに引っかけてもわからない。同じような状態に陥った人には骨折してしまう人も多いだろうと思った。

まさか、準備運動やリハビリで馴染みのあるストレッチが、故障の原因になるとは思いもしなかった。私は大学卒業後、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を取得し、病院に勤務していた。それゆえに、今回のようなケースの末梢神経麻痺が現代の医療では治療が難しいものだということを頭では理解できたが、恐怖と睡眠不足、精神的な不安でいらだち、とてもすぐには冷静になれなかった。意識に反応しない右脚に、しばらく途方に暮れたが、家族の献身的な支えがあり、やがて私は前進する覚悟を決めた。

「深部感覚」から身体がよみがえる!(晶文社)P18〜P22

私が末梢神経麻痺から回復するために工夫しおこなったリハビリにつきましては、「深部感覚」から身体がよみがえる!(晶文社)に執筆しました。

復活!そもそも「体が硬い」とはどのような状態なのだろうか?身体は思い込みでできている

ある背中の曲がった小さなおじいさんがいらっしゃいました。生前は「おじいさんも小さくなってしまって」「背中が曲がってしまったんだね」と親戚で話していました。しかし、その方が亡くなった時、布団に寝かされているのを見て、皆が驚きました。なんと、背中がまっすぐな大男になっていたのです!また解剖の研究室に行っても、遺体の方々はご高齢の方ばかりです。しかも皆、身体がまっすぐできちんとしている。最初は理由がよくわからないので「なぜ背骨の曲がっている人がいないのだろう」と本気で不思議に思っていました。皆さん姿勢のよい人だったのかな、と。

何が起こっていたかというと、意識・無意識的に身体にかけていた余計な力がなくなり、筋肉の縮みが解消されたのです。それで真っ直ぐに戻ることができた。おそらく、どの方も同じだと思いますが、背中や腰が曲がっている方は、亡くなられると一度弛緩して、それから死後硬直がはじまり、そのかたちで棺に収められます。つまり、生きているときは、自分の意識・無意識の入力によって、身体の使い方、姿勢を保っているわけです。「思い込み」が身体を作っている。

腰や身体が曲がってしまうのは、あまり良いことだとは思えません。しかし、悪い方向に保つことができるのであれば、意識的にトレーニングすることで、その入力を良い方向に切り替えていくこともできる。そして、いまよりも良い状態にすることも可能なのだ、と気が付きました。

「骨盤おこし」で身体が目覚める(春秋社)P.20〜P22

これは、「骨盤おこし」で身体が目覚める(春秋社)に執筆したエピソードです。「体が硬い」という状態は、今の自分の意識・無意識の入力によってできあがっています。開脚90度で後ろにひっくり返ってしまうほど体が硬かった私は「何が何でも開脚前屈をできるようにするという」一大決心をしました。そして、意識的にトレーニングすることによって、開脚前屈がある程度の形になったのだと思います。

体が硬くて開脚できない理由!股割り動作の神経系統が出来上がっていない

しかしながら、開脚前屈がある程度の形になったとはいえ、筋断裂・末梢神経麻痺という大怪我に発展したわけですから、「思い込み」だけの意識的なトレーニングでは危ういのです。人は亡くなると一度弛緩して、それから死後硬直します。体が弛緩するのは神経系統が停止するからです。私の末梢神経も圧迫されて停止しましたから、足がぶらん、と垂れてしまいました。足が硬直しなかったのは諦めずにリハビリに励んでいたからなのだと思います。とはいえ、股割りができる人と股割りができない人、神経系統は共に作動しています。何が違うのでしょうか?これは開脚姿勢をとる、開脚前屈をする、という姿勢と動作の神経系統ができあがっているか、できあがっていないか、ということになります。例えば、野球をはじめたばかりの子が、ボールを上手く投げれない。投球動作のお手本を見て、まねて、反復して、投球動作の神経系統をつくっていくのです。体が硬くて開脚ができない理由は、股割り動作の神経系統が出来上がっていないからなのです。

ボブ・アンダーソン氏提唱「ストレッチ理論」と「股割り理論」は別もの

私は、開脚前屈がある程度の形になった、と思い込んでいましたが、それには股割り動作の神経系統が出来上がっていませんでした。私が取り組んでいた股割りはいわゆる「股裂き(またさき)」になっていたのです。股裂きは、筋肉を伸ばすストレッチの方法になります。1960年代にアメリカから始まったストレッチングの理論は、1975年に発売されたボブ・アンダーソン氏の著書『STRETCHING』により日本にも広く普及しました。今やストレッチはスポーツや健康向上のためのエクササイズとして常識になっています。しかし、股割りを股裂きのようにストレッチの方法でおこなってしまうと、筋肉の伸長限界に到達してしまいます。そうすると、私のように運悪く筋肉を断裂させてしまうのです。筋肉の特徴は収縮をして力を発揮します。股割りは、開脚前屈という動作を円滑におこなえるようにするためのトレーニングですので、動作に作用する筋肉を収縮できるようにしていかなければなりません。ですから、股裂きのように筋肉を伸ばし切ってしまうと、動作に筋肉が作用しませんので、動作が円滑になることはありません。若いお相撲さんたちも股割りに励んでいるようですが、股裂きになりがちです。股裂きは、開脚ができているように見えますが、中身がありません。パフォーマンスを低下させる可能性が高いので正しい股割りトレーニングに励んでほしいと思います。

間違っていた股裂き、開脚ストレッチと股割りは別もの「本当の股割りとは」

お相撲さんやバレリーナは股の筋を切って開脚をできるようにする、というのは間違いだったようです。これは、私のように間違った股割りをやってしまったお相撲さんやバレリーナが股の筋を切ってしまった、ということでしょう。体が硬い人で180度開脚に憧れている人は多いと思います。そして、股裂きでもいいから180度開脚ができたらかっこいい、という人もいます。股裂きは、筋肉が断裂して再起不能に発展する可能生があるのでよくよく考えてください。私は股裂きの失敗から本当の股割りトレーニングを学ぶことができました。股割りは、股関節の外転、外旋で開脚姿勢をとり、股関節の屈曲で開脚前屈をする動作です。股割りは、開脚前屈の動作を円滑におこなえるようにトレーニングします。これは開脚前屈動作の神経系統をつくっていくのです。まずは股割り動作のお手本を見て、まねて、反復して、時間をかけて神経系統をつくっていくことが大切です。股割り動作は、開脚前屈で終わりではありません。そのつづきは、股関節の外転、外旋、屈曲から股関節の内転、内旋、伸展に切り替える動作があります。一般には、足抜きといいますが、股関節の切り返し動作を股割りではロールオーバーといいます。ロールオーバーは動作のキレをトレーニングします。今後、ロールオーバーに挑戦する股割りチャレンジャーを心待ちにしています。

股割りにチャレンジする

東京・股割りチャレンジ教室

第3日曜日(+前日の土曜日)
「股関節の回転力」をアップして、運動の質を根本から変える構造動作の「股割りトレーニング」を指導します。

三重・股割り個人指導

中村考宏が股割りの個人指導をします。初心者から経験者まで対応します。股割りトレーニングは積み重ねていく心身の鍛錬です。正しい方法を身に付けて、怪我がなく、効果的にトレーニングを行うことが大切です。

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