監修:中村考宏
股割り歴20年。MATAWARI JAPAN 代表。柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。えにし治療院院長。【DVD】構造動作トレーニング “股割り”を極める(BABジャパン)、著書「骨盤おこし」で体が目覚める(春秋社)、趾でカラダが変わる(日貿出版社)、しゃがむ力――スクワットで足腰がよみがえる(晶文社)、“動き”のフィジカルトレーニング(春秋社)他多数。メディアUP!−名古屋テレビ【メ〜テレ】で股割り紹介。テレビCM股割り「割る」出演。BABジャパン 月刊秘伝10月号「股割りの秘密」【前編】【後編】。他プロフィール詳細
先日、治療で来院した競輪選手に股割りをみてほしいといわれた。とりあえず股割りトレーニングをやっているそうだが、ロールーバーまでやってみせてくれた。すると、これであってますか?と私に聞く。まだ、股割り動作の精度が低いため、股関節をコントロールする実感がなく、これであっているのか半信半疑の様子。しかし、とりあえずやてみる、という行動はとても大切なことだ。行動がなければ、股割りの世界をみることはできない。私は股割り動作について改善点などについては教えることができるが、やっていない選手には何もいうことはない、がんばってほしい。
使える股関節を手に入れるためには、股関節の動きを鍛えなければならない。股関節がやわらかい、硬いということと、股関節を使えることとは別のことなのだが、股関節を実感できない段階では、それを理解することが難しい。股関節をゆるめたり、ほぐしたりしたとしても、使える股関節を手に入れることは出来ないのだ。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
股関節に痛みや違和感がある選手は、股関節が使えていない場合が多い、と考えた方がよい。そして使える股関節を手に入れるためには自分が何をしていかなければいけないのか?トレーニングとは、自問し続けるものなのだと思う。
構造動作トレーニング・東京教室の参加者から、『股割りで股関節を切り返す時のタイミングがわからない』と質問がありましたので動画をアップしました。参考になりましたら幸いです。
「股割り」のやり方は、大きく開脚をして、足関節背屈、足の指を握ってキープ、重心を前方へ移動し、体幹が前屈する。このとき骨盤は、股関節で屈曲し、恥骨、下腹、お臍の順に、床へ接触する。接触を確認した後、股関節を切り返す。この切り返す動きをロールオーバーという。股関節の外転、外旋、屈曲⇒内転、内旋、伸展への一連の動作を、構造動作トレーニングの股割りという。 恥骨、下腹、お臍の順に床へ接触していない場合は、足のキープが不十分、股関節から骨盤を完全に屈曲できていない。床に胸は接触しても下腹が浮き、らくだのように腰が丸くなっている。足関節背屈、足の指を握り、足が前に倒れないようにキープできるようにすることが大切だ。
久しぶりに大阪・構造動作トレーニングの参加者と連絡を取った。元気に自粛生活を送り、自主トレに励んでいるそうだ。そして、「股割りトレーニングは素晴らしい!なんて今さらながら実感しています。笑」との返信があった。私が股割りトレーニングの何が素晴らしいのか、尋ねると、「人体の真理、動きの真理に近づいている感じがします。蜃気楼かもしれませんが・・・ でも蜃気楼が大事。」とのことだった。
蜃気楼とは物体の見える方向が、大気の屈折により真の方向からずれて見える現象。彼はフランス文学を専攻していたのでロマンチストなのだが、私にもわかるような気がする。私の股割りトレーニング歴は20年くらいになるので、その間に様々な体、動作の変化、気づきがあった。気づきの中には、何か凄いことに気づいてしまったのではないか、と蜃気楼、あるいは妄想のようなことが多々あった。
1つのことを深めていくことは、他人には知りえない、自分の世界を掘り進めていくことになる。掘り進めていく過程で気づくことというのは、掘り進めた先では普通のことなのだが、先に到達してない段階では凄いこと、蜃気楼、妄想のようなことなのだ。しかし、掘り進めた先には真理があるのだと信じている。
股割りトレーニングは、シンプルな動作であるから、動作を深めていくことで、頭から余分な知識が削り落ち、体の運動と感覚の循環が良好な状態を築きやすいのだと思う。
先日、フィジカルトレーニングとして取り組んでいる股割りをみてほしいとの希望があった。希望された方は体がやわらかいスポーツ選手。なので、股割りのロールオーバーのようなことが簡単にできてしまう。本人は、これでよいのか、わからないという。そして、これができると何に効果があるのか、わからない様子。
股割りのロールオーバーは股関節外旋、外転、屈曲から内旋、内転、伸展に切り替える。体のやわらかいスポーツ選手がやってみせたのは内旋、外転、屈曲から内転、伸展の股関節の回転運動がないものだった。股割りがある程度できるようにならないと、この違いを認識することが難しいのではないかと思う。
体のやわらかいバレエダンサーで、股割りのロールオーバーに似ている開脚脚抜きをする際、股関節の感覚がない、股関節の動かし方がわからない、と自覚している人もいる。まずは、股割りトレーニングに取り組んでみる。そして、正確なルーティーンを身に付け、股割り動作の質を高めていくことで、良し悪しがわかり、その効果を実感できるのだと思う。股割りはフィジカルトレーニングとして優れている。是非、若い選手にはやりきってほしい。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
今日は秋晴れの過ごしやすい気候だった。夜は、仕事帰りの男性が来院した。股割り歴は10年の男性、コロナ禍も毎日の股割りは欠かしたことがない。股割りをはじめる以前は、長時間の立ち仕事や家族とディズニーランドに行って帰ってくると、腰や背中、膝などが、痛くなってしかたがなかったが、股割りのコツがわかるようになってからは、長時間の立ち仕事も長距離を歩いても、へっちゃらになったという。仕事場でも、若い人から、動けるおっさん、といわれるのが、嬉しいそうだ。
趣味の合気道歴は数十年になるが、本部の80代の先生から肩の力が抜けて身体つきが変わった、と褒められて、益々、股割りに磨きをかけようと意気込んでいる。男性は、身体つきというのが、骨格位置だと解釈している。最近は、合気道の技も大切だが、骨格位置を求めることにより、強く、安定し、すぐさま次の動作へ移ることができる姿勢で技を出すことにより、格段に技の精度が上がるのだという。
股割りは、シンプルな基本動作だ。何かを追及している人の中には、基本動作の中にある、原理原則に気づいている人がいる。しかし、シンプルな基本動作は奥深い、出来ないもどかしさを越えていきたいそうだ。
ある程度、股割りらしくなってきたが、足の使い方、腕の使い方、胸の運動方向など、修正ポイントはたくさんある。身体をやわらかくすることで、動けるようになると、誤解している人が多い。動けるようになるためには、身体を動ける状態にすることが必要で、決して身体をやわらかくすればよい、ということではない。身体を動ける状態するというのは、股割りのようなシンプルな基本動作を、あたりまえに出来る状態にするということだ。
基本動作の原理原則を辿っていく過程で起こる、様々な変化は、自分にとって良い気づきをもたらす。これを積み重ねていける人を私は尊敬する。
股関節を動かす、なんとなくできそうな感じはするが、実際のところ実感がない。股関節が硬い人は、股関節を動かせないから、股関節を動かす実感はない。開脚がべったりできる人の中にも、股関節を動かす実感がない人が多い。
股関節を動かす、なんとなくできそうな感じはするが、できない人にとっては、難しいこと。実感を伴わない股関節は、負担を受けて疲労しやすい。負担がかかっている状態であるという実感がないままに使い続け、股関節の違和感、股関節の張り、股関節のつまり、股関節の疲労、股関節の痛みへと発展させてしまう。股関節を動かす感覚がほしい。
股関節を動かす、実感がない人は股関節の位置が曖昧。股関節を動かす、実感がある人は股関節の位置が明解。股関節は、ヒップジョイント、お尻の関節である。股、あるいは、鼠径部の関節だと、勘違いしたままでは、股関節を動かす、実感がないまま。正しい知識を身に付けることが大切だ。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
股関節を動かすことができているかは、股割りで開脚前屈をして検査することができる。開脚をしてハムストリングスや内転筋が痛くなる場合は、坐骨結節を圧迫していることが多い。坐骨結節はハムストリングスの付着部であるから、正しい骨盤の位置で開脚をすることが大切だ。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
開脚をする場合は、外転筋を作用させること。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
開脚をする場合は、外旋筋を作用させること。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
開脚前屈は、大腰筋を作用させること。股関節を動かす、なんとなくできそうな感じはするが、実際のところ実感が得られない。これは、股割りや股関節屈曲運動などで、実感を得ることができるようになる。実感がない人には難しい動きだが、チャレンジする価値はあると思う。
股関節を正しく円滑に動かすためには腰背部の安定した維持が欠かせない。立位では下肢を除く部分の体重が両股関節にかかる。さらに歩行や走行など動作をおこなうさいには、その何倍もの重さで負荷がかかる。そのため下肢骨の結合は、体重を支持するために上肢骨の結合に比べ、より強固である。腰背部を安定して維持するためには、骨盤から股関節を介して伝達する力を分散して大腿骨に伝わる骨格位置を身に付けることが必要不可欠だ。
▲骨梁の図出典「基礎運動学 中村隆一」、出典:Grant’s METHOD of ANATOMY
骨盤から股関節を介して伝達する力を分散して大腿骨に伝わる骨格位置で、力学的に強度を備えた骨盤の位置は、恥骨結節と坐骨結節を結ぶ三角形の骨盤底面が接触する位置である。この骨盤と股関節のアーチ構造において、腰背部を安定して維持することができる。股割りで、骨盤の位置を検査する場合は、後方に坐骨結節を確認する。
▲骨盤のアーチ構造
股割りトレーニングで股関節の可動域が拡大したときに、仙骨と腸骨の間で、コクンという音を経験し、私は自分の仙腸関節の存在を実感した。仙腸関節は、仙骨と腸骨の両耳状面の間にある結合。この関節は、過去に動かない半関節として分類されたが、現在は、はっきりと区別できる関節隙と2個の対立する関節面をもつ滑膜関節として分類されている。仙腸関節の運動については、1.仙腸関節の上面と下面に隙間があく2.仙骨底が前後にゆれる(うなずき運動)3.腸骨が仙骨の上で水平に動く、3タイプの報告がある。私は仙腸関節を実感したが、運動については実感できていない。今後の股割りトレーニングの成果で、仙腸関節の運動について、なにか知り得ることがあるのなら楽しみだ。現在の私の考えとしては、仙腸関節は脊柱と骨盤を連結し、体重を分散するショックアブソーバーのような関節だと考えている。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
腰背部を安定して維持するためには、脊柱と下肢骨の力学的に強度を発揮する位置、各関節が役割を果たせる状態、そして、背筋第1層〜第6層、腹壁筋群、下肢筋群などが運動に際して正常に作用する状態であることが必要だ。 股割りで、骨格位置、関節の状態、筋肉の作用状態を検査し、検出された問題に対し、適切な処置を施すことが大切だ。そして、正しい動作の感覚入力、円滑な運動で出力をすることを繰り返し、正しい股関節の動きを身に付けることが必要だ。
体位と移動運動の重要な要素の一つは、大腿骨頭部上での骨盤の前後方向への傾斜である。骨盤の前部の近位方向への運動、つまり恥骨結合を臍の方に持ってくる運動は、後方傾斜(骨盤後傾)とよばれ、腰部脊柱の屈曲をともなう。これと反対方向への骨盤の傾斜は腰部脊柱を伸展させる。この骨盤の前方傾斜(骨盤前傾)は脊柱起立筋と大腰筋の収縮によりなされる。骨盤の後方傾斜には、腹直筋と内外腹斜筋ばかりでなく、ハムストリング筋と大臀筋も関与する。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
一般にハムストリング筋として知られる大腿の後部の筋群は、股関節を伸展させ膝関節を屈曲させる作用がある。この筋群は、半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋の3つからなる。大腿が固定されていると、とくに大腿二頭筋は、骨盤の後方への傾斜に作用する。大腿二頭筋は長頭と短頭の2頭を起始にもつ。大腿二頭筋の短頭を除き、これらの3つの筋はすべて近位側は坐骨結節に付着する。大腿二頭筋の短頭は、大腿骨の粗線外側唇と外側顆上線からおこる。半腱様筋と半膜様筋は大腿の後内側に位置するのに対して、大腿二頭筋は後外側にある。
臀部のもっとも表層の筋が大臀筋である。身体の筋のうちで最大で、この筋が大きいことがヒトの筋系の特徴で、これは直立姿勢を獲得する上で果たした役割に起因すると考えられている。大臀筋は腸骨の後臀筋線より後方、仙骨、尾骨の外側縁、胸腰筋膜、仙結節靭帯からおこり、下外側方に走る。大転子を越え、浅層は大腿筋膜の外側部で腸脛靭帯にうつり、深層は大腿骨の臀筋粗面に付着する。骨盤が固定されていると、大臀筋は大腿を屈曲位から伸展させる作用がある。大腿の強い外旋を助ける作用もある。上部の線維は股関節における強い外転に作用する。大腿が安定していると、この筋はハムストリング筋とともに、かがんだ姿勢から身体を起こす時のように骨盤を大腿骨頭上で後方へ回旋させるのを助ける。腸脛靭帯への付着によって、大臀筋は大腿骨を脛骨上で安定化させる助けとなる。また正常歩行の様々な位相において、断続的に作用するという点で重要である。
梨状筋は中殿筋の深部に横たわっている西洋なし形をした筋である。仙骨の前面で上方にある3つの前仙骨孔の間および傍らからおこり、筋束は外側方に向かって集まり大坐骨孔を通って骨盤腔を出る。大転子の上縁に付着する。正常では、大坐骨孔を出るとき坐骨神経のすぐ上に横たわるが、ときには坐骨神経の総腓骨部が梨状筋を貫き、分割する。この場所で神経がワナにかかったようになるのを梨状筋症候群と呼ぶ。梨状筋の作用は伸展された大腿を外側方に回転する。大腿が屈曲していると、股関節を外転する。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
大腿四頭筋は脚の大きな伸筋である。この筋は、外側広筋、中間広筋、内側広筋、大腿直筋の4つの部分からなる。このうちの3つ、すなわち広筋は大腿骨上に起始があるが、大腿直筋は骨盤からおこる。大腿直筋は2頭からなり、下前腸骨棘および寛骨臼上縁からおこる。これらの筋は大腿前面をくだり、幅広い筋膜によって膝蓋骨底に付着する。大腿直筋は膝を伸展させるだけでなく、股関節を屈曲させる作用がある。この筋の作用は大腿が固定されていると、骨盤の前方への傾斜を助ける。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
競技動作において、脊柱起立筋と大腰筋の収縮によりなされる骨盤の前方傾斜(骨盤前傾)は重要だ。股割りは、脊柱起立筋と大腰筋を、どの程度、収縮して作用させることができているか、検査するのに適している。
股割り動作で骨盤を前方傾斜するさいに、脚を固定することが重要だ。大臀筋と大腿四頭筋、ハムストリング筋、梨状筋などの外旋六筋など、それぞれの筋の作用、主動作筋と拮抗筋の関係を理解し、脊柱起立筋と大腰筋の収縮率を高めたい。
腸骨領域の筋は、後腹壁筋とよばれることもある。これらの筋は、すべて脊柱に直接作用し、腰椎領域に付着する。
大腰筋はT12〜L5の椎体の前外側部、それらの骨の間の椎間板、すべての腰椎の肋骨突起からおこる。骨盤の縁にそって下降し、鼠径靭帯の深部と関節包の前を通って、腱を介して大腿骨の小転子に停止する。腸骨筋は、腸骨稜の内唇、腸骨窩の上2/3、仙骨の上外側部からおこる。そして大腰筋とともに大腿骨の小転子に停止する。
大腰筋は腸骨筋とともに、おもに股関節で大腿を屈曲する作用がある。下腿を固定すると体幹を屈曲する作用がある。 また、この筋肉は大腿を外側に回旋させるように作用する。座位においては、大腰筋が体幹の平衡に関与しているという報告がある。 これらの筋は、背臥位から座位に身体をおこすときに重要。
小腰筋は、T12〜L1椎体外側部と、それらの間の椎間板に起始する。そこから下降して、長い腱によって恥骨隆起に付着する。弱い体幹屈曲として作用する。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
腰方形筋は、腰椎肋骨突起の先端にそって位置し、不規則な四辺形をしている。下方は、L5の横突起、腸腰靭帯に隣接する腸骨稜の後部に付着する。上方は、第十二肋骨の下縁とL1〜L4の横突起先端に付着する。骨盤が固定されているときは、この筋は腰部脊柱を側方に屈曲する作用がある。両側の筋が収縮した場合は脊柱の伸展を助ける。また左右それぞれが第十二肋骨を引き下げ、横隔膜の第十二肋骨からの起始部を安定化することにより吸気を助ける。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
股割り動作にて四肢と体幹の連動性と、後腹壁筋の作用状況を検査する。 胸最長筋が胸部と腰部を直立に保つように脊柱にそって縦に浮き上がっている状態でスタートする。 このときに坐骨結節の位置をそろえ、胸郭を安定して維持することが大切だ。
股割りで重心を前方へ移動し、体幹を前屈する際に、恥骨結節〜下腹が床に接触しない場合は、骨盤と胸郭の位置が保てておらず、腰方形筋が作用していない。したがって、腹圧が不十分な状態であり、大腰筋が力を発揮できず、腰が入っていない動作になる。
腹圧は、背筋、 前外側腹壁、後腹壁筋が、それぞれ作用する状態で腹内圧が高まる。しっかり、腹圧を高めて、動作をおこなえるようにしたい。
頸椎前部と関連をもつ筋には、頚長筋、頭長筋、前頭直筋、外側頭直筋がある。これらの筋は、頸部および後頭部の屈曲に作用する。
頚長筋は、頸椎の体全部にそって位置する。それぞれ、垂直部、下斜部、上斜部の3つの部分からなる。作用は、頚長筋全体では頸部を屈曲する、上斜部と下斜部は頸部を側方屈曲する、下斜部は頸部を回旋する。頭長筋は、頚長筋の前方やや外側に位置する。作用は頭部を屈曲する。前頭直筋は、頭長筋より深部に位置する小さな筋である。作用は環椎後頭関節において頭部を屈曲する。外側頭直筋は、前頭直筋のように小さな筋である。作用は頭部を環椎上で側方に屈曲する。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
股割り動作は、床に骨盤を立てた位置で座り、股関節を外転、外旋で脚を固定し、重心を前方へ移動するとともに体幹を屈曲し、恥骨結節から下腹が床に接触するようにする。
股割りを始めて間もない場合は、重心を下方へ、伏せるようにして、床に胸やおでこを付けてしまうことが多い。股割り動作では、重心を下方に向けると、動作を終わらせることになる。ハイハイで移動している赤ちゃんが進行方向を見るのを止めるときは、移動を止めるとき、疲れたときであり、頭は床に付けて動きを止める。
股割りは重心移動を円滑にするための訓練であるから、重心移動を止めることをしない。股割り動作で重心を前方へ移動させるときは、視線を高めに頭の位置を保持するのだが、視線が低くなり、頭の位置が下がりやすいので、頭と体幹の位置を保持できるようにする。
股割り動作で、伏せてしまう場合や頭が下がってしまう場合は、顎を引く動きを頸椎でおこなっている。顎を引く、と表現したのだが、曖昧な表現なので頭部の屈曲とした方がいいだろう。顎を引く、という表現は、子供の頃、柔道を習いにいった最初の稽古で、まず教えられる。受け身の練習で、頭を守るために顎を引きなさい。そして、正座をするときは、顎を引いて、背筋を伸ばして、ということもいわれた。両者は、意味合いが違う。受け身の場合は頭を守るため、正座の場合は姿勢の形として。実際には、顎を引くということが、顎関節、頸椎、胸椎、腰椎のどの領域でおこなうことか明確にされていないので、曖昧な表現だといえる。
動作をするときに、頭を屈曲する習慣があると、気道などの頸部全部を圧迫することになるので、デメリットになる。どのような動作をおこなうにしても、頭の位置は鼻棘耳孔線を水平に保ち、身体の天辺でバランスを維持できるようにしたい。
前外側腹壁を構成する外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋、腹横筋の4つの筋は、脊柱に直接の付着部をもたないものの、屈曲、側方屈曲、回旋など、いくつかの体幹運動に関わっている。これらは姿勢を維持する筋としても、また腹内圧を高める上でも重要だ。
▲解剖学アトラス 越智淳三=訳
外腹斜筋は、4つのうち最大でもっとも表層にある。内腹斜筋は、外腹斜筋のすぐ深層にある。腹横筋は、内腹斜筋の深部にある。腹直筋は、前腹壁の全長にわたって延びる長い帯状の筋である。腹筋は、腹部の臓器を本来の位置に維持し、またそれらの臓器に対する立位および座位での重力の影響に対抗している。胸郭と骨盤が屈曲するとき、これらの筋、とくに腹斜筋は腹内圧を高める。そのさい、横隔膜と骨盤底の筋とともに作用する必要がある。これは、出産、呼気、排尿、排便、嘔吐のときに重要だ。
腹筋は、大腰筋や腰方形筋といった深腹筋とともに、体幹の運動に不可欠のもので、また、これらの腹筋は呼吸運動にも大切だ。強制呼気には腹直筋を強く収縮させることで可能になる。
競技動作において、これらの腹筋の作用は重要であるが、体幹の運動をするさいに、股関節を中心におこなうのか、それとも、腰部の脊柱を中心におこなうのか、その違いを理解しておきたい。競技動作には、股関節を中心にした体幹の運動が向いている。一方、腰部の脊柱を中心にした体幹の運動は、腰椎に過大な負担をかける、また、大腰筋などの深腹筋が作用させにくい、などのデメリットがある。
体幹の運動を股関節を中心におこなえているのかを、股割りで検査する。股割り動作をするさいは、股関節を屈曲させて、体幹(骨盤、胸郭)を前屈する。背中が丸まる、あるいは、全く前屈できない場合は、股関節に動きはなく、骨盤が固定された状態で、腰部の脊柱を中心にした体幹の運動になっている。
呼吸に関わる筋は、すべて肋骨に付着部をもつ。呼吸を助けることに加え、これらの筋は、すべて体幹運動時の胸郭の安定化に関与している。呼吸に関わる筋には、肋間筋、肋下筋、腹横筋、肋骨挙筋、上後鋸筋、下後鋸筋、横隔膜がある。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
肋間筋は、隣接する肋骨をつなぎ、外肋間筋、内肋間筋、最内肋間筋の3筋が重なり合う。肋下筋は、1つ以上の肋骨にまたがり、下部胸郭でよく発達している。腹横筋は、胸肋筋ともいい、肋骨を胸骨に結びつける。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
横隔膜は、呼吸に関わる最も重要な筋である。ドーム状の筋腱膜で、上方に凸になっている。食道、大動脈、下大静脈、交感神経管、内臓神経の通る開口部を除き、胸腔と腹腔を完全に分離している。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
競技動作において、胸郭を安定した状態で動作をおこなうことは大切だ。胸郭が安定しないと、姿勢が崩れやすく、また呼吸が乱れやすくなる。胸郭が薄くなっている、鳩尾辺りが落ち窪んでいる場合は、胸郭を安定して維持できていない。
胸郭を安定させて動作できているかを、股割りで検査する。胸郭を安定した状態を維持して動作をするためには、背筋の第1層の僧帽筋と広背筋を確実に作用させたい。そして、さらに背筋の第三層の上後鋸筋と下後鋸筋まで体幹運動時の胸郭の安定化に作用させたい。
股割り動作をするときに、背中が丸くなる場合は、背筋の1層レベルでコントロールできていない。競技動作のような激しい運動をする場合は、呼吸にかなりの負担がかかるので、胸郭を安定させて維持させるためにも、背中を使えるようにしたい。
上肢骨は、胸郭と連結する上肢帯(鎖骨と肩甲骨からなる)と、その末端につづく自由上肢骨(上腕骨と尺骨、橈骨と手の骨からなる)とにわけられる。左右の上肢帯は、それぞれ後ろの広い部分(肩甲骨)と、前の弓状の部分(鎖骨)とからでき、胸郭の上方全周を囲むように位置している。
肩甲骨は、三角形の扁平骨で胸郭の背側に接し第2〜第7肋骨の高さに位置し、内側方は多くの筋によって胸郭と結合され、外側方は関節によって鎖骨および上腕骨と結合される。
鎖骨は、胸郭上端の前方でほぼ水平に位置する長骨で、その両端はそれぞれ肩甲骨および鎖骨に接する。鎖骨は皮下に触れやすく軽くS状にまがる。鎖骨は、胸骨端、肩峰端、鎖骨体にわける。鎖骨の胸骨端と胸骨の鎖骨切痕との間にできる関節を、胸鎖関節という。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
胸鎖関節の運動は広く、その助けによって上肢の自由運動がおこなわれる。鎖骨は肋鎖靭帯を支持点として、その肩峰端の楕円運動(上下に8p、前後に10p)をおこなう。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
肩関節の参考可動域の角度は、前方拳上(屈曲)180度、後方拳上(伸展)50度、側方拳上(外転)180度だが、肩関節周囲の筋肥大による可動域制限や腕の故障により参考可動域の角度に届かない場合は、僧帽筋や広背筋が正常に作用してないことが考えられ、よって正しい頭の位置、腕の使い方ができておらず、四肢と体幹を連動させることが難しい。肩関節の正常可動域が維持できてない場合は、上肢帯、頸椎、胸椎などに適切な処置を施し、正常可動域を取りもどすことが先決だ。
さて、太極拳を趣味にしているシニアの方が、今回は腕の動きをみてほしいとのこと。太極拳に限らず、腕の動き、そしてその使い方は大切だ。腕の動き、各関節の可動域などの検査をした後、全身が動きやすい状態へ施術をほどこし、正しい腕の使い方の感覚を入力し、正しく運動で出力できる状態に身体をセッティングする。
そして、正しい腕の使い方が、体幹と連動しているのか、股割りで検査する。腕というのは、四肢の一部であり、正しく腕を使うということは、四肢と体幹が連動している動きであることが大切だ。
正しい動作を身に付けるためには、感覚を入力、運動で出力することを繰り返すことが必要だ。おそらく、どのような学びでも感覚入力と運動出力の繰り返しが大切だと思うが、股割りはシンプルな動作なので正しい動作を身に付けることに向いているのだと思う。 効果が出せない場合は、これらのことを積み重ねていないことが多い。
脊柱と直接の関係を持つ筋で後頭下筋がある。後頭下筋群は、大後頭直筋、小後頭直筋、下頭斜筋、上頭斜筋の4つの小さな筋からなり、後頭骨の下方、後頸部の最も上部に位置する。この領域では、最深部の筋で、僧帽筋、頭板状筋、頚半棘筋の深層になる。これらの筋は、環椎後頭関節での頭部の伸展と、環軸関節での頭部の回旋に作用する。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
大後頭直筋は、C2の棘突起〜後頭骨に付着。両側性に作用すると、頭部を伸展する。一側性に作用すると、作用側に顔面が回旋するように頭部を回す。小後頭直筋は、大後頭直筋の内側、環椎の後結節〜後頭骨に付着。この筋の作用は、頭部を伸展する。下頭斜筋は、軸椎の棘突起〜C1の横突起に付着。この筋は顔面が収縮側に向くように環椎を回旋させる。上頭斜筋は、環椎の横突起〜後頭骨に付着。この筋の作用は、頭部の伸展と収縮側へ側方屈曲する。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
背筋の第六層の多裂筋、回旋筋は軸椎から仙骨に付着して脊柱の回旋、安定化を助ける。そして、軸椎に付着し、環軸関節での頭部の回旋に作用するのが、後頭下筋である。後頭下筋群は、後頭下神経に支配されるが、この筋群のニューロン当りの筋線維数は少なく、3〜5本である。この高度な神経支配が、これらの筋の張力や急速な変化を可能にし、頭部の運動の微妙な調整や、頭部の位置の極めて正確な制御をしている。
競技動作において、体幹が安定して維持されていると、頭がぶれない。体幹と頭が安定して維持されていると、動作が速くなっても、円滑に動作をおこなうことができる。一方、体幹の安定を維持できないと、頭の位置が左右にぶれたり、上下したりして、円滑に動作をおこなうことが難しい。
そして、股割り動作にて四肢と体幹の連動性と、後頭下筋群の作用状況を検査する。背筋の第五層の脊柱起立筋に左右差がない状態、四肢に左右差がない状態、 胸最長筋が胸部と腰部を直立に保つように脊柱にそって縦に浮き上がっている状態でスタートする。頭は、股割り動作で重心を前方へ移動する際に体幹の真上に頭を位置するようにする。頭を下げてしまうと重心移動を円滑におこなうことができない。
脊柱と頭を維持して環軸関節の可動を確保する。頭部の運動の微妙な調整や、頭部の位置の極めて正確な制御することは全身の運動に関わる、そしてそれが円滑な重心移動を行うことになるのだ。
背筋の第六層は、半棘筋、多裂筋、回旋筋からなる。これらの筋、とくに短い筋の作用は、おもに主動作筋としてよりは安定化筋として体幹の維持の役割がある。
半棘筋は、胸半棘筋、頚半棘筋、頭半棘筋の3つに区分される。胸半棘筋は、下位6個の胸椎の横突起、C6〜T4の棘突起に付着する。頚半棘筋は、上位5個の胸椎の横突起、下位4個の頸椎の関節突起、軸椎の棘突起、C3〜C5の棘突起に付着する。頭半棘筋は、厚く強力な筋で、半棘筋の中で最も発達している。C7〜T6の横突起、C4〜C6の関節突起、後頭骨に付着する。両側の筋が同時に作用すると、胸半棘筋と頚半棘筋は脊柱の胸部と頚部を伸展するように作用する。これらの一側性の作用は椎体を回旋させる。左右の頭半棘筋が同時に作用すると、頚部を伸展し、一側性に作用すると頭部をわずかに回旋する。
多裂筋は、腰多裂筋、胸多裂筋、頚多裂筋の3つに区分される。多数の筋束や腱束からなり、腰椎の乳様突起、胸椎の横突起、頸椎の関節突起、環椎を除くすべての椎骨に付着する。作用は脊柱を伸展、回旋、側方に屈曲する。多裂筋は、体幹回旋時の安定化筋として作用する。多裂筋の中で腰多裂筋がもっとも発達している。腰部では特に伸展に作用する。
回旋筋は多裂筋の深部にあり、横突起と棘突起との間の溝の最も深層にある筋束を構成する。この溝は、仙骨から軸椎まで脊柱の全長にそって走る。回旋筋は胸部で最も発達している。両側性に作用すると、脊柱の伸展を助ける。一側性に作用すると、脊柱の回旋を助ける。回旋筋の主な作用は、脊柱の安定化にある。
背筋の第六層は、脊柱を軸とした回旋・回転運動の安定化に重要だ。若い頃、一輪車に乗る練習をしたことがあった。それまで猫背姿勢が慢性化していたこともあり、一輪車に乗って脊柱を立て、バランスをとることで、脊柱の形がイメージできるくらいの筋肉痛になった。これは、第六層の半棘筋、多裂筋、回旋筋などの筋肉痛だったと理解している。普段の生活動作では、精密な脊柱のコントロールををしなくても、猫背姿勢でまかなえてしまえることに、大きな気づきがあったものだ。
競技動作では、腰の回転を速くしたい、走行時の体幹を安定させたい、ノーモーションでハイキックを放ちたい、ターンを安定させたい、など、それぞれ目標がある。おそらく、身体に一足飛びという概念はなく、一層〜六層まで順にクリアしていかなければ目標を達成できないのだと思う。
そして、股割り動作にて四肢と体幹の連動性と、背筋の第六層の作用状況を検査する。第五層の脊柱起立筋に左右差がない状態、四肢に左右差がない状態、 胸最長筋が胸部と腰部を直立に保つように脊柱にそって縦に浮き上がっている状態でスタートする。
体幹の回転運動を安定させる要素は、脊柱の安定化の他に、下肢の安定、上肢の安定、環椎と軸椎の回転運動を円滑にすることなどがある。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
背筋の最大が第五層である。この層は脊柱起立筋群からなり、一括して仙棘筋ともよばれる。脊柱起立筋群は、脊柱にそって縦に走る一連の筋で、棘突起の外側を満たしている。胸部と腰部では後方を胸腰筋膜に覆われる。脊柱起立筋群は3つの筋群に分けられる。棘突起から外側へ、棘筋、最長筋、腸肋筋の3つである。
棘筋は、胸棘筋、頚棘筋、頭棘筋の3区分よりなる。胸棘筋は、この中では最もよく発達している。T11〜L2の棘突起、T1〜T4の棘突起に付着。脊柱を伸展する作用がある。頚棘筋は、T1〜T6の棘突起、C2の棘突起に付着する。脊柱、頚部を伸展する作用がある。頭棘筋は、C7〜T6の椎骨の横突起、C4〜C6の関節突起、後頭骨に付着し、頭半棘筋と交じり合う。両側の頭棘筋の作用は、頭部を伸展する。一側の作用は、頭部、頚部の側方屈曲、作用側から遠ざかるような頭部の回旋を引き起こす。
最長筋は、胸最長筋、頚最長筋、頭最長筋の3区分よりなる。胸最長筋は、脊柱起立筋のうちで最大の筋である。第三〜第十二肋骨、12の胸椎のすべての棘突起、T11〜L5の棘突起、正中仙骨稜、仙結節靭帯、後仙腸靭帯、外側仙骨稜、後内側腸骨稜に付着し、きわめて長いために最長筋と名付けられた。胸部と腰部を直立に保つ作用があり、一側性に作用すると脊柱を側方に屈曲する。頚最長筋は、T1〜T5の横突起、C3〜C6の横突起結節および関節突起に付着する。一側性の作用は、頚部の伸展と同側へ側方屈曲の組み合わさった運動を引き起こす。頭最長筋は、T1〜T5の胸椎横突起、C4〜C7の関節突起、側頭骨の乳様突起に付着する。一側性に作用すると頭部を同側に側方屈曲させ回旋する。
腸肋筋は、腰腸肋筋、胸腸肋筋、頚腸肋筋の3区分よりなる。腰腸肋筋は脊柱起立筋のうち最も下方かつ外側にある。下位6〜9本の肋骨、T11〜L5の棘突起、正中仙骨稜、仙結節靭帯、後仙腸靭帯、外側仙骨稜、後内側腸骨稜に付着する。作用は脊柱を伸展し、外側に屈曲する。胸腸肋筋は、下位6本の肋骨の肋骨角の上部からだいたい上位6本の肋骨の肋骨角とC7椎骨の横突起に付着する。作用は、胸部脊柱を伸展し、外側に屈曲する。頚腸肋筋は、第三から第六肋骨の肋骨角の上部からC4〜C6椎骨の横突起に付着する。作用は下頚部を外側に屈曲、伸展する。
競技動作で、骨盤が後傾して腰が立たない、腰痛を繰り返す、姿勢が崩れやすい場合は、背筋の第五層の脊柱起立筋を正しく作用できていないことが考えられる。第五層の脊柱起立筋が正しく作用できていれば、L4〜L5を触診すると、胸腰筋膜に適度なはりがあり、胸最長筋が胸部と腰部を直立に保つように脊柱にそって縦に浮き上がっている。第五層の脊柱起立筋が正しく作用できていない場合は、触診で胸最長筋が沈んだように感じられ、また、脊柱起立筋全体で筋肉が隆起している箇所、沈降している箇所など、棘突起の左右で差が触診できる。
そして、股割り動作にて四肢と体幹の連動性と、背筋の第五層の作用状況を検査する。第五層の作用が不十分な場合、骨盤に回旋が生じている傾向にあり、坐骨結節の位置をそろえてから、股割り動作をおこなうことが大切だ。股割り動作で重心を前方に移動する際に、腰、背中が丸まる場合、あるいは、猫背になる場合は、背筋の第五層が正しく作用できていない。これは、競技動作をおこなう上で、 下肢と脊柱をつなぐ腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)が力を発揮できる状態にないのでパフォーマンスを高めるのに致命的だ。第一層から順に見直すことが必要だ。
背筋の第三層は上後鋸筋と下後鋸筋とからなる。これらの筋は、背筋の中間層と呼ばれ、第一層と第二層の表層筋、第四層から第六層の深層筋との間にある。この層は、ほぼ四角形をなす薄い筋で、上後鋸筋は、C7〜T3の棘突起、第二〜第五肋骨後部に付着する、下後鋸筋は、T11〜L2の棘突起、下位4本の肋骨後部に付着する。これらの筋の作用は、呼吸を助けることが考えられる。
背筋の第四層は、頭板状筋と頚板状筋からなる。頭板状筋は、項靭帯、C7〜T3の棘突起、側頭骨乳様突起、後頭骨に付着する。頚板状筋は、T3〜T6の棘突起、環椎と軸椎の横突起、C3〜C4の横突起に付着する。両側の板状筋が作用すると、頭部と頚部が進展する。片側の板状筋が作用すると、頭部と頚部が外側に屈曲し、顔面が収縮側に僅かに回旋する。
競技動作で、頭が安定せずグラグラ動いてしまい安定しない場合は、背筋の第一〜第二層の表層筋と第四層の深層筋の作用状態が不十分で、肩甲骨が固定されていないことが考えられる。
股割り動作で第四層の板状筋の作用状態を検査する場合は、頸椎と上肢帯の位置関係を検査する。股関節を安定してコントロールするためには、頭部にブレがない状態で動作することが重要だ。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
背筋の第二層には、大菱形筋、小菱形筋、肩甲挙筋の3つの筋がある。3つとも第一層の僧帽筋の深部にあり、僧帽筋とともに上肢を脊柱に結び付け、肩甲骨の内側縁に付着する。
大菱形筋は、T2〜T5の棘突起に付着する。小菱形筋は、大菱形筋のすぐ上方に位置し、項靭帯、C7〜〜T1の棘突起に付着する。どちらの筋も上肢の運動に作用し、肩甲骨の位置と動きの安定化を助ける。
肩甲挙筋は、環椎、軸椎、C3〜C4の横突起、肩甲骨内側縁に付着する。頸椎を固定すると、肩甲骨の拳上と回旋を助け、肩先を下げる、肩甲骨を固定すると、頚部を外側に屈曲、同側に回旋、肩甲挙筋が両側で作用すると、頸椎の伸展を助ける。
競技動作で、肩が挙がりやすい、腕の振りが滑らかにおこなえない、手足のリズムが安定しない、体幹が崩れやすいなど、上肢と脊柱に問題が予測される場合は、背筋の第一層と第2層が正しく作用していないことが考えられる。肩関節や脊椎椎間関節の可動域に制限がある場合は、適切な処置を施し、正常可動域を維持する。
そして、股割り動作にて四肢と体幹の連動性と、背筋の第一層と第二層の作用状況を検査する。正常可動域を維持しているからといって、四肢と体幹の連動性が良好な状況であるとは限らない。
背筋の第一層は、僧帽筋と広背筋からなる。この2つの筋は、脊柱からそれぞれ、肩甲骨と鎖骨、上腕骨へ走る。 股関節を正しく使える状態にするためには、下肢のアライメントを正しく配列した状態で、下肢と脊柱をつなぐ腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)が力を発揮できる状態を維持する 。このときに、頭の位置、腕の使い方が、腸腰筋が力を発揮できる状態の体幹を維持するのに重要になる。
第一層:僧帽筋、広背筋
第二層:大菱形筋、小菱形筋、肩甲挙筋
第三層:上後鋸筋、下後鋸筋
第四層:頭板状筋、頚板状筋
第五層:頚胸腰腸肋筋、頭頚胸最長筋、頭頚胸棘筋
第六層:頭頚胸半棘筋、多裂筋、頚胸腰回旋筋
僧帽筋は、もっとも表層かつ上方にある背筋で、後頭部、後頸部、C7〜T12の棘突起、肩甲棘、肩峰、鎖骨に付着し、頚と肩甲骨の運動に作用する。
広背筋は、表層の下方かつ外側にある背筋で、T6〜L5の棘突起、胸腰筋膜、仙骨後部、腸骨稜、下位4本の肋骨、上腕骨に付着し、上腕骨の内転、内旋、伸展の運動に作用する。広背筋の起始の多くは胸腰筋膜にある。この筋膜は、強靭で胸部から仙骨まで広範囲に広がる胸部では脊柱起立筋を薄く覆うが、腰部ではきわめて強靭で3つの層を構成する。
肩関節の参考可動域の角度は、前方拳上(屈曲)180度、後方拳上(伸展)50度、側方拳上(外転)180度だが、肩関節周囲の筋肥大による可動域制限や腕の故障により参考可動域の角度に届かない場合は、僧帽筋や広背筋が正常に作用してないことが考えられ、よって正しい頭の位置、腕の使い方ができておらず、腸腰筋が力を発揮できる状態の体幹を維持することが難しい。肩関節の正常可動域が維持できてない場合は、上肢帯、頸椎、胸椎などに適切な処置を施し、正常可動域を取りもどすことが先決だ。
これらの僧帽筋、広背筋の付着部をもとに股割り動作で、正しい頭の位置、腕の使い方ができ、腸腰筋が力を発揮できる状態の体幹を維持できているのかを検査する。
股割り動作は、床に骨盤を立てた位置で座り、股関節を外転、外旋で脚を固定し、重心を前方へ移動するとともに体幹と骨盤を屈曲し、恥骨結節から下腹が床に接触するようにする。体幹と骨盤を屈曲する際に、背中や腰が曲がって体幹を保持できない場合は、正しい頭の位置、腕の使い方ができておらず、僧帽筋、広背筋が正しく作用していない。そのため腸腰筋が力を発揮できる状態の体幹が維持できていない。
実践的な股関節の可動域アップに取り組むことは、全身の運動を流通させることであり、四肢と体幹の連動を骨格位置、関節運動の方向、筋肉の作用などを総合して、股関節を正しく使える状態にし、実践的な動作につなげていきたい。
▲基礎・臨床解剖学 翻訳早川敏之
治療院に通院される方には、その人に必要な動作改善のアドバイスをする。また、パフォーマンスを高めるために身体を整え、定期的に施術を受けながら股割りに取り組んでいる人には、構造動作トレーニングに基づく股割りを指導している。パフォーマンスを高めるためには、基本動作を見直すことが欠かせない。
構造動作トレーニングに基づく股割りは、身体が硬い人ばかりでなく、身体がやわらかい人も苦戦している人が多い。それは、股割りはあくまでも股関節の基本動作だからだ。静的にストレッチポーズをとるだけならば、その形になるだけでも良い。しかし動的に股関節をコントロールするためには、基本動作を行うために必要な要素をすべてをクリアしなければできるようにならないのだ。
「開脚をすると太ももの内側の筋肉が痛い」という人が多い。太ももの内側には、内転筋群や半腱半膜様筋などの筋肉がある。股割り動作の質やポジションにより、痛くなる筋肉にも個人差がある。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
例えば、臀筋を作用させて大腿を外転できない場合は、内転筋群が拮抗筋として作用できず、筋肉がつっぱる。また、開脚をしたときに腰を立てることができない場合は、骨盤後傾ポジションによる無理な開脚なので、坐骨結節に付着する半腱半膜様筋をのばしてしまっている。
股割りをできるようにしたい、という人は、無理な可動域で大きく開脚をし過ぎる傾向にある。何事も一足飛びにはいかないので、腰を立てれるようにし、自分が股関節をコントロールできる開脚可動域からはじめることが大切だ。
股関節は自由度の高い関節だが、運動性が著しく制限され、股関節に痛みを出したり、動作を不自然にしてしまうことがある。運動性が制限されると、臀筋や内転筋など股関節の運動に関与する筋肉が上手く作用しなくなる。筋肉が作用しているかどうかは、股関節の運動で確認する。股関節の運動は、屈曲、伸展、外転、内転、外旋、内旋。
股関節を開脚する運動は、外転、外旋。開脚前屈は、外転、外旋、屈曲。ロールオーバーは、内旋、内転、伸展。この中の股関節運動で外旋と内旋で筋肉が上手く作用しないことが多い。この場合、自由下肢の連結を考え、問題を解決することが大切だ。
まずは、開脚をしたときに足関節をコントロールできているようにすることが先決だ。
▲日本人体解剖学 金子丑之助著
自分ができていなかった事に気づくときは、自分ができていなかった事ができるようになったとき。できるようになって、はじめて自分の何ができていなかったのか、を実感する。
股割りに取り組み始めた頃、歩いているときに右の股関節の動きを感じ、自分が右股関節を動かせていなかった事に気づいた。当時は、強引な股割りをしていたせいで、股関節の丸い輪郭にそった関節痛をともなう痛い気づきだった。
股割りに取り組んでいても、それが正しくできているかわかりにくい。私の場合は、歩行動作で股割りに取り組んだ成果を確認するようにしている。当時は、右の股関節を動かせていなかった事が印象的で、左の股関節についてはノーマークだった。ところが、歩いているときに左大腿骨を軸として内外旋する動きを感じ、自分が左股関節を動かせていなかったことに気づいた。股関節以外にも、歩いているときに膝のお皿(膝蓋骨)がコロコロと動きはじめて、膝関節を動かせていなかったことにも気づいた。
結局、私はできていなかった事が多く、未だできていない事と向き合っている。もし、私がすべてできてしまっていたとしたら、股関節の仕組みを実感するチャンスがなかったかもしれない、と思っている。股関節の内外旋は、大腿骨を軸として回転する運動だが、できていない場合は外旋のポジション、内旋のポジションというように形で理解し、動きにつながらない。股関節の内外旋が循環するように股割りのロールオーバーで内外旋の切り替えを実感したい。
▲カラースケッチ解剖学 嶋井和世 監訳
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