股関節の位置は一般的に大腿前面・鼠径部辺りだと思われがちです。
解剖学ではHip joint(ヒップジョイント)といいます。
本来、股関節は骨盤と大腿骨との間にできるお尻の関節なのです。詳しくいうと大腿骨の寛骨臼と大腿骨の大腿骨頭の間にできる臼状関節という球状の関節になります。股関節は脚のつけ根、下肢と体幹をつなぐ関節です。人が歩く、走る、動くためには欠かせない関節であり、動きの質を決定する関節といえるでしょう。
▲正面から撮影したレントゲン画像
股関節は、強靭な靭帯で補強されています。なおかつ、肩関節の球関節と比べ、臼状というように関節窩が深く外れにくい構造になっています。
腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯、寛骨臼横靭帯、輪帯、大腿骨頭靭帯
股関節を動かすには多くの筋肉が協力し合います。
伸展:大殿筋、中殿筋、小殿筋、大内転筋、梨状筋、(半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋長頭)
屈曲:腸腰筋、大腿筋膜張筋、恥骨筋、長内転筋、短内転筋、薄筋、大腿直筋、縫工筋
外転:中殿筋、大腿筋膜張筋、大殿筋、小殿筋、梨状筋
内転:大内転筋、小内転筋、長内転筋、短内転筋、大殿筋、薄筋、恥骨筋、大腿方形筋、外閉鎖筋、半腱様筋
外旋:大殿筋、大腿方形筋、内閉鎖筋、中殿筋、小殿筋、腸腰筋、外閉鎖筋、薄筋を除く内転筋群、縫工筋
内旋:中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、大内転筋
など
股関節は伸展、屈曲、外転、内転、外旋、内旋の6方向に動きますが、1方向のみの運動ということはほとんどありません。例えば、脚を上げるのに屈曲と外旋が合わさったり、私たちは様々な組み合わせで股関節運動を行っているのです。また、股関節は球状の関節ですから大きく開脚することもできる自由度が高い関節といえます。
太ももの外側で大腿骨の大転子という骨の出っ張りを確認する。大転子を確認できたらそのすぐ後ろが股関節の位置。ちょうどお尻のえくぼの位置にあたり、その名の通り hip jointです。
股関節の位置はどのような運動をするにしても確実にしておくべきです。なぜならば、股関節の位置が後と前とでは運動の質がまったく異なるからです。例えば、おじぎ(前屈)動作では股関節の位置を大腿の前面辺りだと勘違いしているとお尻を突き出すようにして重心を後ろへ移動させてしまいやすくなります。逆に股関節は後hip jointだと理解していたら重心を前に移動することができるでしょう。運動とは重心の移動ですからおじぎ(前屈)動作にしても運動方向へ重心が移動すべきなのです。できれば股関節の位置は実感しているのがベストです。
股関節は、やや外旋した状態がニュートラルポジションです。外旋とはつま先を外へ向ける股関節の運動方向のこと、逆につま先を正面へ向けるのは内旋といいます。
カラダの構造にはアクセルとブレーキ機能が備わっています。アクセルは動くとき、ブレーキは止るときに働きます。
股関節のアクセル | 股関節のブレーキ |
---|---|
股関節外旋 | 股関節内旋 |
骨盤前傾 | 骨盤後傾 |
腹圧(腹筋群伸張) | お腹を凹ます(腹筋群収縮) |
フラット接地~膝蓋骨が第4・5中足骨上を通過 | 母趾球加重 |
股関節は立体的な動きが可能な構造です。股関節の屈曲、伸展、外転、内転は直線的な運動ですが外旋、内旋が加わることによって立体的な運動になります。股関節は、外旋方向の運動がアクセルに働き、内旋方向の運動がブレーキに働きます。
アクセル:外旋、外転、屈曲
ブレーキ:内旋、内転、伸展
骨盤後傾は股関節のブレーキです。動きを止めるときや休むときなど運動を停止するときに必要な機能になります。股関節は骨盤立位ポジションがフリー状態です。さらに骨盤立位の股関節ニュートラルポジションではいつでも動き出し可能な状態になります。ここから骨盤前傾で股関節のアクセルになり、前傾角度が深まると加速します。
「骨盤おこし」で身体が目覚める(春秋社)P.39から引用
腹圧は股関節のアクセルです。腹圧は自前のコルセットのようなもので内臓のスペースを確保し体幹の強度を高めます。体幹を安定させることで動きのポイントが股関節になるのです。逆にお腹を凹ますと動きのポイントが腰椎になり体幹は折れ曲がるばかりか股関節のブレーキになります。腹圧のかけ方は、まずお腹を膨らますことからはじめてください。呼吸はやりやすい方法でお腹を凹ますことと膨らますことを交互におこないます。お腹を膨らますことに慣れてきたら、それをキープしながら股関節を動かします。さらに腹圧を高めるためには広背筋の収縮が必要になります。
腹圧:腹筋群→伸張、広背筋→収縮
母趾球加重は股関節のブレーキです。動きを止めるときや休むときなど運動を停止するときに必要な機能になります。股関節のアクセルはフラット接地において膝蓋骨が第4・5中足骨上を通過する足関節の方向です。≫≫小指はアクセル、親指はブレーキ
股関節を滑らかに動かすためにはブレーキを解除してアクセルで動く必要があります。一般の方は股関節を柔軟にしたり、可動域を広げようとするときに太もものつけ根辺りばかりを何とかしようとします。しかし、股関節は脚を動かす関節ですから足の指先までを回復しなければ効果が得られません。実は足の小指や薬指に意識すら通らない人が多いのです。アクセルが実力不足では股関節を滑らかに動かしようもありません。末端からトレーニングすることが大切です。
股関節の動きを滑らかにするためのトレーニングは、足と体幹の構造を整えて股関節の動きを訓練します。足と体幹を整えるというのは、股関節が動く状態に下肢骨を配置し、骨格筋の働きを万全にすること。そして、それらの骨格位置が重力を無理なく受けることができるポジションにあること。足と体幹を整えるというのは、股関節を滑らかに動かすための条件になります。この条件を満たすためには、骨格位置を定め、骨格筋回復、深部感覚の入力などの要素をクリアしていきます。
股関節の動きの訓練は、これらの条件を保持しながら重心移動を円滑に股関節運動を行います。股関節運動は、スクワットや股割りなどの基本動作がわかりやすいと思います。わかりやすいというのは、骨格ポジションが保持できているか、重心移動が円滑に行われているか、など実際に股関節の動きを確認しやすいということです。
スクワットは、しゃがむ動作ですので股関節屈曲、膝関節屈曲、足関節屈曲、という下肢を深く曲げる動きをします。股割りは、股関節外転・外旋・屈曲、という開脚で前屈する動きをします。これらの基本動作は、とてもシンプルですので股関節が滑らかに動いているか、動いていないか、一目瞭然です。
股関節を柔軟にするための施術を受けたり、ストレッチを続けているけれども、「股関節の動きが思うようにいかない」という声を聞きます。股関節に可動制限がある、或いは、股関節に痛みがある場合は、股関節が滑らかに動くための条件を満たしていない、もしくは、動作の際に条件を保持できていないと考えられます。
何を求めるかにもよりますが、股関節を滑らかに動かすためには、それに必要な条件を揃えて動きを訓練することが大切です。
「股関節がやわらかい」というのは、どのような状態のことなのか?おそらく、「股関節がやわらかい」という実感をした経験がなければ想像するしかありません。ですから、開脚180度できることが「股関節がやわらかい」と想像している人が多いと思います。しかし、実際にはストレッチに取り組んで180度開脚を達成したとしても、今度は「股関節を動かしたい」ということになります。現場では、開脚180度できたとしても、動きにキレがない、怪我が絶えない、などの悩みが多いのです。
それは、例えば「開脚ストレッチ」と「股割り」は、筋肉を伸張するか収縮するかの違いがあります。ストレッチは筋肉を伸ばしてやわらかさを求めるのに対し、股割りは筋肉を収縮して動きを求めます。そして、多くは開脚ストレッチに取り組むのです。筋肉には、伸ばされると縮むという特性があります。これは、伸張反射といわれる生体の防御反応で、関節が可動範囲を超えて怪我をしないように制御しています。「開脚ストレッチ」で180度開脚を達成する場合は、この伸張反射を鈍らせてしまった状態のことが多いのです。逆に「開脚ストレッチ」で180度達成できてない場合は、伸張反射が作動しているので正常といえます。しかし、開脚180度を達成したとしても、動作では動きにキレがない、怪我が絶えない、という結果が待っているのです。
筋肉が力を発揮するのは収縮したときです。股関節は、筋肉が収縮することにより可動します。つまり、「開脚ストレッチ」は筋肉を伸ばす(伸張)ばかりで股関節の動きの訓練に至っていないのです。ですから、「開脚ストレッチ」は股関節をやわらかく滑らかに動かすのに向きません。これは、ストレッチを否定しているわけではなく目的に合わないのです。ストレッチは、適度に心身をリラックスするのによいでしょう。
股関節をやわらかく滑らかに動かすためには、股関節をそのように動かす訓練が必要です。「股割り」はそのための一つの方法なのです。「股割り」は、股関節を外転/外旋/屈曲に筋肉を収縮して動きを訓練をします。「股割り」も「ストレッチ」と同様、緻密な知識と実践を要します。股関節のやわらかい滑らかな動きを求める、動きのキレを求める、怪我の予防を求めるのには、「股割り」などの動きの訓練が必要なのです。
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