私の骨格ポジションの考え方が、「骨盤おこし」となってメディアに登場してから10年以上になる。当時は空前の「骨盤」ブームということもあり、「骨盤おこし」をするとダイエットできるんですか?という認識の方がほとんどで、骨格ポジションという背景に興味を持たれる方は稀だった。
しかし、10年もするとその背景に気づく、あるいは興味を持たれる方が増えてきたように思う。私自身も解剖学の学びからヒトの遠い歴史を感じれるようになってきてヒトの骨格ポジションの在りように考えを巡らせている。
解剖学の基準として解剖学的肢位ということがある。臨床をつづけていくと解剖学的肢位は静止ポジションであり、リハビリやトレーニングに向かないことがわかってくる。骨盤ポジションも同様で一般的には坐骨結節の2点支持の基準になっていて動きを回復、あるいは向上するためのリハビリやトレーニングでは使えない。そのために、直ちに始動可能な骨格ポジションが「骨盤おこし」の背景にあった。
直ちに始動可能な骨格ポジションの基準は、基底面積が広く安定していること、体を支持するための骨自体の強度を発揮できること、である。
さらに、骨格を直ちに始動可能なポジションにセッティングする目的は、骨格筋の起始停止部を整えて効率よく筋収縮をおこないたい。それは、リハビリやトレーニングをおこなうことによって快適な動作が得られなければならないからだ。
骨盤をおこす、骨盤を立てたポジションは、骨格筋が効率よく収縮するための起始停止部の位置になる。
骨盤後側には大臀筋が走行する。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
大臀筋の下の層には中臀筋、小殿筋が走行する。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
深層には外旋六筋といわれる、梨状筋、上下双子筋、内外閉鎖筋、大腿方形筋が股関節を埋め尽くしている。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
骨盤おこし、骨盤を立てた、骨盤の強度を備え安定したポジションは、内臓器の十分なスペースを保って保護するとともに、股関節が直ちに始動可能な状態にある。
股関節を確認するのには、大腿骨の大転子を指標にする。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
臀部の深層には大転子を中心に外旋六筋が扇状にに走行している。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
臨床的には外旋六筋が覆っている、大坐骨孔、小坐骨孔を通過する神経叢、動静脈の還流量を保つことが重要だ。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
骨盤を走行する神経、動静脈は下肢の知覚、運動、血流を支配する。例えば、坐骨結節で骨盤を支える不安定なポジションの持続は、これらにストレスをかけつづけることで筋骨格系の問題に発展しやすい。
▲分冊解剖学アトラス 越智淳三=訳
解剖学的肢位は静的な基準であるからリハビリやトレーニングを行う場合は動的な基準を設けることが望ましい。しかし、解剖学的肢位が窮屈な肢位にもかかわらず、それを感じない、楽だと感じる、という人々が大勢いる。これは大きな問題をはらんでいる。
1890年代にイギリスの生理学者チャールズ・スコット・シェリントンが外部感覚と内部感覚を区別するために固有感覚と名付けた感覚がある。この感覚は、深部感覚ともいい体の位置、緊張、動きをたえず感知し修正する。
もし体に何かしらのストレスがかかるような窮屈な肢位で何も問題を感じないのだとすれば、それを感知し修正するはずの固有感覚が低下している。それは固有感覚受容器が刺激を感知できないのか、感覚神経経路が途絶えているのか、中枢の情報処理能力が低下しているのか、いずれにせよ感覚システムが危うい。これを深部感覚が鈍い、薄い、という。深部感覚は、筋骨格系の問題に発展する前に取り戻したい感覚だ。また、ヒトが快適な動作をおこなうためにも欠かせない感覚なのだ。
骨盤の動的肢位の基準は、基底面積を広く安定、もっとも骨の強度を発揮するポジション。この骨盤ポジションができない場合は、まず、恥骨の深部感覚を取り戻し、床に接触することからはじめるとよい。
さらに股関節の動きをコントロールする場合は、骨盤に対する大腿骨のアライメントと臀筋(大臀筋、中臀筋、小殿筋)の筋線維を整え、外旋六筋が効率よく収縮する状態にすること。
これは、股関節が滑らかな回転運動を行うための条件になる。
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