大腰筋の収縮率を高め股関節の運動を滑らかに

大腰筋は腰椎から大腿骨の小転子に付着している。
この筋肉を効率よく収縮させて脚の屈曲、外旋運動を滑らかにしたい。
しかしながら、お腹の筋肉の深層にあることでトレーニングが難しい筋肉だといえる。

大腰筋
【起始】第12胸椎〜第4腰椎の椎体と第1〜第4腰椎の肋骨突起(浅頭)、全腰椎の肋骨突起(深頭)
【停止】大腿骨の小転子
【作用】股関節を屈曲、外旋する、腰椎を前尾方に引く

深部感覚
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫

大腰筋の収縮率を高めたいが、それを難しくしているのは表面の筋肉を作用させて動くことに慣れ過ぎが原因。
お腹の表面の筋肉は、腹直筋、内外腹斜筋、腹横筋がある。

例えば、お辞儀をするとき、どの筋肉で、どの関節で体幹を前屈するか?
おそらく腰で曲げるという人がほとんどだと思う。

深部感覚
▲分冊解剖学アトラス 越智淳三=訳

腰を曲げる場合は、腹直筋の作用。
腹直筋が作用すると腰椎は屈曲する。
いわゆる腹筋運動というのは腹直筋の収縮運動、腰を曲げる運動である。

大腰筋の作用は股関節の屈曲、外旋。
大腰筋を効率よく収縮するには、腰を曲げて前屈するのではなく、
腰椎の生理的湾曲を保った状態で両股関節で体幹を前屈する。
つまり、腹直筋を収縮させない、腹腔内のスペースを保った状態で大腰筋を収縮するのだ。

深部感覚
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫

お腹の表面の筋肉は腹壁を作って内臓器、腰椎を保護する役割。
腹直筋を頻繁に作用させすぎるとこれらにストレスをかけつづけることになる。
腹直筋は肋骨から恥骨に付着している。
腹腔内にストレスがかかっている場合は、恥骨が浮き上がっているので目安にするとよい。
特に恥骨の知覚が鈍くなっている傾向にある。

深部感覚
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫

お腹の表面の筋肉は、腹腔の内圧を高め自前のコルセットのように内臓器、腰椎を保護する。
これは、腰椎の動きは最小限、股関節の動きを主にする。

深部感覚
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫

腹腔の内圧を高めることを腹圧という。
大腰筋を効率よく収縮させ作用させるには腹圧を高めることが条件になる。
お腹の表面の筋肉を内臓器、腰椎の保護に作用させることで、大腰筋の積極的な作用が可能になる。

深部感覚

股関節の外転、外旋、屈曲運動のさいは、腹圧を保つことで滑らかな動きが可能になる。
大腰筋が適切に作用しているならば前屈をすると下腹が床につく。
下腹が床につかない場合は、腹直筋などが作用して腰椎が屈曲している。

大腰筋のトレーニングは、深層筋ということで難しさがある。
しかし、トレーニングに慣れてくると骨格ポジションからその作用をみることができる。
ヒトが動作をする上で確実に作用させたい筋肉である。

大腰筋を使えるようにするためには「多裂筋を収縮できるか」が肝要

アスリートのプライベートレッスンをしていると、「大腰筋を強化している」という方がかなりの割合でいる。自分が大腰筋を上手く使えていないことを理解し、「大腰筋を使えるようにしたい」という方もあるが、「大腰筋は使えてないが強化している」という方がほとんどだ。

健康目的で大腰筋をトレーニングするなら大腰筋の作用に沿って股関節を屈曲、外旋方向に動かすくらいのことを繰り返していればよいと思うが、それがパフォーマンスアップのためということであれば目的達成は叶わないだろう。

大腰筋と拮抗する筋肉で多裂筋という筋肉をご存知だろうか?

多裂筋

多裂筋は脊柱後面にある深層筋です。作用は頚部と体幹を伸展・回旋し、体幹を保持するのに重要な役割を担っています。

多裂筋
【起始】第4〜第7頸椎の下関節突起、全胸椎の横突起、全腰椎の乳様突起と副突起、仙骨の後面
【停止】軸椎以下の全椎骨の棘突起

多裂筋を確認する場合は下位腰椎、仙骨部を触察できます。上位腰椎の高さでは、多裂筋を触知するのは難しいが、下位腰椎の高さでは多裂筋の筋腹は厚く、棘突起と最長筋の間から触知しやすい。また、仙骨後面で触知できる筋腹はすべて多裂筋です。

深部感覚

▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫

多裂筋の起始停止部を整える

大腰筋を使えるようにするというのは、「大腰筋が作用する状態にある」ということです。大腰筋が使えない方というのは、腰椎を前尾方に引くという作用が強すぎて、股関節の屈曲と外旋が苦手になっています。これは多裂筋、長肋筋、最長筋などの脊柱起立筋の体幹を保持するという作用が弱くなっている状態です。逆にいえば多裂筋を収縮させることが苦手で大腰筋を上手く使えないともいえます。

多裂筋を収縮させることが苦手な方は、胸最長筋や腰腸肋筋を部分的に収縮することに慣れて腰に負荷をかけすぎている傾向にあります。いわゆる、腰が入らない状態です。この状態では、大腰筋をトレーニングしても収縮率はあがりません。

まず、多裂筋を収縮させることができる状態にするには筋肉の起始停止部を整えることが必要です。これが「骨盤おこし」トレーニングです。さらに「深部感覚」トレーニングで動きの感覚を高めます。この状態で大腰筋トレーニングを行うことができれば効果的です。

 

 

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