手というのは精神と肉体の状態を敏感に現す精密機器のようであり、強大な力を発揮する重機のようでもある。
この対照的な働きを行う上で重要になるのが手の接触だ。指先は繊細な作業、手全体は力作業をおこなう。指先の接触圧は強すぎても弱すぎても繊細な動作にならない。手全体の接触圧は強すぎても弱すぎても強大な力を発揮することに至らない。
手と物(ヒト)の接触において広い面積で必要にして十分な「圧・力」であること。「圧・力」は強すぎても弱すぎても不十分、動くときは必要にして十分な「摩擦力」が必要だ。
手には多くの力みが存在する。
精神的な緊張は発汗、筋肉をこわばらせ、それが力みとなり体にブレーキをかける。精神的な力みは自信のなさ、肉体的な力みは手の機能が作業や動作とマッチしていない。効率よく力を伝えるためには、どちらの力みがあってはいけない。
例えば指先のコントロールが思うようにいかないときは、精神的な力みと肉体的な力みが入り交じっている。果たして、どちらの力みが先なのか?自分の手の状況をしっかり把握することが必要だ。
手は繊細な作業、力作業をするときは作用する筋肉が異なる。繊細な作業をするときは手内筋を、力作業は体全体の力を手に通している。実際は両方を使いながら作業するのだが、 手内筋に繊細な作業と力作業の両方を課し、手のコントロールが思うようにいかなくなっていることが多い。これは、投手、テニスプレイヤー、ピアニスト、タイピスト、手を扱う技術職人などの幅広いジャンルでいえる。
手内筋とは手の短い筋肉で中手の筋、母指球の筋、小指球の筋がある。そのなかでも中手の筋に注目。中手の筋は、 虫様筋 、掌側骨間筋、背側骨間筋のことをいう。 虫様筋 、掌側骨間筋、背側骨間筋 は、MP関節屈曲、IP関節伸展の作用。
ここに停止する線維は、掌側骨間筋の腱とともに翼腱(wing tendon)とよばれる。
掌側骨間筋は中指を中心に指を閉じる。
背側骨間筋は中指を中心に指を開く。
▲日本人体解剖学第一巻(南山堂)著 金子丑之助
手・指は持つ・握る・ひっかく・なでる・拍手する・つまむ・つねる・ひねる・むしるなど種々の動作が可能。その基本となるのは、つかみ(grasp)とつまみ(pinch)である。つかみに類似したことばににぎり(grip)がある。つかみは5本の指を放して瞬間的に物をとらえる動作、にぎりは指を揃えて持続的にとらえている動作。指を主に用いる場合はつまみという。
▲基礎運動学(医歯薬出版株式会社)著中村隆一・斎藤宏
手内筋が作用している指はMP関節屈曲、IP関節伸展 。
手内筋が作用してない指(指屈筋の作用)は MP関節伸展、IP関節屈曲。
スポーツをしていて「突指」をし、「放置」してはいないだろうか。
それがいつしか指先が曲がった状態で伸ばすことができなくなることもあるが、それは手内筋が作用しない状態に陥っている。指先の繊細な動作を鈍らせて動作全体が雑になっていることに気づかない選手が多い。たかが「突指」と放置してしまうと股関節の動きにブレーキをかけることに繋がっていくのだ。手・指の怪我は適切な処置と治療で後遺症を残さないことが大切だ。
股関節の動きを滑らかにするための手内筋アプローチ。
1、上腕骨−前腕骨-手根骨のアライメントを整える
2、胸鎖関節-肩関節-肘関節(腕尺・腕頭・橈尺)-橈骨手根関節の運動方向をアクセル
3、手根間関節、中手手根関節、指節間関節の可動域拡大
4、手内筋の収縮率をアップ
5、基本動作で最適な手の接触
やわらかい手をもって最適な力加減で動作をおこないたい。これは技術的な手の使い方との区別が肝要。そのさい股関節が滑らかに可動していればよい。
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