股割りの秘密【後篇】|中村考宏の股割り月刊『秘伝』2011年11月号

『あなたは本物の股割りを知っているか?』構造動作トレーニング中村考宏氏が教える、最少最短の「型」股割りの秘密【後編】

重心移動で股割りをする

前回の前編では中村氏の人となりと股割りの全体像についてご紹介した。後編の今回は如何にして股割りを実践するかにつてご紹介していきたい。
「まず最初に今の状態を知ることが重要で、ごく簡単な方法でしゃがんでみればわかります。しゃがんでみて骨盤が立っていれば股関節がしっかり動かせているタイプといえます。逆に骨盤が寝て(後傾して)踵重心になったり、つま先重心になったりする人は股関節が動いていないわけです。多くの人は骨盤が寝た状態であることが多いですね」本記事をお読みの人はぜひ実践して欲しい。この時に股関節を意識して行うのではなく無意識に行ってみることが重要だ。ためしてみて踵重心になった人は骨盤が動かず寝たままの状態で上半身の重さがそのまま股関節の上に載っている状態といえる。中村氏が提案する股割りで目指すところはこの骨盤を起こすことで上半身の重さから股関節をフリーにし股関節の力で足を「腰から動かす」ことだ。つまり「いかに上半身の重さを前に送るか、重心移動を前にするか」が重要であり、前編で繰り返し書いたとおり単に足を開くのではなく、重心移動で股関節を可動させ、結果として足が開き股が割れるわけだ。その意味で武術の「型」に近く、』本誌でご紹介するにあたって『最少最短の型』と紹介させていただいた所以だ。とはいえ、この「重心を前方に送る」ということ自体がなかなか難しいのも事実だ。ほとんどの場合我々は重心を後ろにかけ踵重心で地面を蹴り生活しているからだ。そこで今回は股割りを始めるにあたって、いくつかの簡単な準備動作的な物を用意したので、まずここから始めてほしい。

股関節は動いているのか?

「一番簡単な方法は立位体前屈ですね。方法自体は同じなのですが体重を踵側に残さず床に付く手にうつして行う。逆に行う時にお手に乗っている重心が体側に戻らないようにしっかり意識して行います。実際に行ってみるとわかるでしょうが重心を自分の前に送るというのはけっこう怖いんですよ。そういう意味では前受け身などを稽古でやっている方の方がとっつきやすいかもしれませんね」 実際に試していただければわかるのだが見た目以上に難しい。どうしても手の方へ重心を預けるのに恐怖があり、脚の前面が強張り体が踵側に体重を残そうと踏ん張ってしまうのだ。「やりにくいと感じた時は膝を緩めて下さい。ストレッチ的に行う立位体前屈ではありません。むしろ少し関節に余裕をもたせることが重要で、これは股割りの稽古全体に言えます。体のどこかが突っ張るような動きはしないように心がけて下さい」 中村氏の言葉とおりに膝を緩めてみると、スッと重心がスムーズに手、つまり体の前方に移る。逆に手をついた状態から立位に戻る時も膝を軽く緩めると、こちらもスムーズに行え、踵からわずかにつま先を超えた手の位置という短い距離ながらも重心が自然に移動することが実感できる。『その感覚を維持したままで次に壁を使ったエクササイズを行います。これは前編でも紹介したものですが、しゃがむのが難しい人も行えるのでおススメです。フルスクワットの状態まで行う必要はありません。出来る範囲で構いません。ただ必ず手に重心をのせて行ってください。少し壁から離れたところから行うのがポイントです。手をついた壁に重心をのこしたまま、骨盤を立てて行います。このエクササイズでそれまでしゃがめなかった人がしゃがめるようになったりしていますのでおススメですね』 立位体前屈に比べ前に壁があるので、あるいはこちらの方がやりやすい人もいるだろう。また壁から少し離れた位置で壁を手に付く必要があるためどうしても骨盤を立てる必要があり知らず知らずのうちに股関節が可動しているのもポイントだ。「とにかく重心を前に送って股関節を自由にする。それが第一歩でありまた全てなんです。この壁を使ったエクササイズは完全に骨盤を立てることが出来なくても、できる範囲で実行できるので非常に有効だと思います」

ボール胡坐で骨盤を立てる

次に中村氏がご紹介してくれたのは「ボール胡坐」という独自のエクササイズだ。「これは一輪車にトライしている中で思いついたエクササイズなんです。一輪車がバランス感覚によいエクサイズだったんで、最初は患者さんにも一輪車を進めたんですけど、誰もやらなくて(笑)。それに近いトレーニング器具を作ったりしたんですけど治療院に来ないとできないので、”何かいい方法はないかな?と考えた時に思いついたんです。バランスボールよりも基底面が狭いので恥骨でしっかり座らないとバランスをとれないのが良い所なんです」 ボールは硬めのものであれば何でもよいとのことで、できれば空気を出来るだけ入れたカチカチの状態がよいという。実際に試してみると柔らかく座るとぐっと広がりバランスがとりやすいバランスボールに比べなかなかバランスがとれずしっかりバランスをとって座るためには恥骨でボールを捉える必要があり自然と骨盤がたってくる。「初めのうちは少し足を投げ出したようにして、踵と恥骨の3点にするとよいでしょう。慣れてきたら足を閉じて2点にします。試しているうちについ脚に手を置いて足で踏ん張ってしまう人がいますが出来るだけ脚には力を入れないで、むしろ体幹部でバランスをとることが大事です」普段はなかなか意識することがない恥骨だが、ボールを通じて接地面の感覚が直接的に恥骨に伝わり、否応なしに体幹部が微妙にバランスをとるために動き続けるので、体幹トレーニングにも有効であることがわかる。また体幹でバランスをとるためには必然的に状態から無駄な力を抜かなければならず恥骨から上体がすっと立つのが分かる。「こうしたボールに座るのは股割りにも有効です。ある程度の高さのあるものに腰掛けることで骨盤が自然に立ちますから「骨盤調節」という面からも良いですね。もちろん座布団を何枚か重ねて行ってもよいのですけど、体幹への効果や繊細な感覚の要請ということを考えるとボールが有効でしょう」

股割りが作る居着かない体

ここからいよいよ股割りにはいるのだが、改めて中村氏より注意が促された。「繰り返しになりますが、股割りは骨盤を立てた状態、胴体と股関節の位置関係を作ったうえで、重心移動でおこなうものです。無理に広げたり突っ張ったりして、痛いのを我慢して行ういわゆる”ストレッチ的“なものではありません。ここを間違えると大変です。 中村氏が繰り返しこう説明するには自分自身の苦い経験があるという。「前回もお話しました通り、私自身股割りは2週間程で腹が床につくレベルになったんです。ただその頃の私も股割りとストレッチの違いが曖昧で”良し、じゃあペタッと身体全体をつけてやれ”と無理をしたんですよ、その結果脚の筋を切ってしまって・・・・。もうプランプランの状態で感覚がないんですよ。これには参りましたね」穏やかな口調で話す中村氏だが、実際はかなりの重症で、当初は自力で立ち上がることもできず、奥さんの手を借り3か月後にようやく歩く段階にたどり着き、完治には1年かかったという。「この経験がストレッチに対する考え方を根本から変えました。それまでは“股割り=開脚”という思いがあり、多少無理にでも開けばいいだろう、というところがあって、実際じわじわと拡げていけば筋肉の伸張反射が無反応になり、足を広げること自体はできます。ただそれでは神経系がうまく可動せず“足先まで神経が行き届いた状態”とは違うわけです。本当に腰から足を、動かしたいのであれば、腰と足先の関係性をもったままで行えなければいけない。こうしたことを実感したのはこのケガが大きかったですね。立ったり歩いたりというリハビリの中で、末端である足先から感覚をつなげることの重要性できたわけです。また足の指先といっても、親指、人さし指、中指よりも小指と薬指の2指が重要性を実感できたわけです。また骨格を見ればわかりますが、重さのかかる足の骨”踵“から立方骨を経て繋がっているのは第4,第5中足骨つまり小指と薬指なんです。この踵から小指、薬指のラインがいわゆる”骨で立つ“という状態なんです」反対に親指側の拇趾球あたりで立つと、体を支えるために筋力を使うため、常に筋肉が緊張した状態になってしまうという。「バランスには筋力バランスと骨格バランスがあって”体が硬いのですが、という人の多くは筋肉でバランスをとっている人です。日常的に筋肉を緊張させていることにより自分で身体を固くしているわけです。理想は骨で体を支えることで筋肉をフリーにして関節にも余裕を生むことです」しかし、骨を支えるにはやはり筋肉が必要になると思うのだがどうなのだろうか?
「それが脚の裏側にあるハムストリングなんです。筋肉というのは縮むことで働くわけで、その意味で必要がない時には緩めておきたいのですが、ハムストリングはそれとは違い常に適度に伸張させておきたい筋肉なんです。家でいうと梁のような状態でハムテンションがあることで他の筋肉、例えば脚の表側にある大腿四頭筋などが緩むわけです。そのためには骨盤を立て、足先を底背屈させる必要があるわけです。これが上体の重みが股関節から抜けて、股関節から足指までが繋がった”骨で立った状態“なわけです。ですから股割りで重要なのは、@骨盤をたてることA足先をしっかり曲げるB重心移動で行うことです。これにより上体の重さから股関節がフリーになり、ハムストリングが効いた常に動ける状態になるわけです」この状態を作ることこそが、股割りの目的といえるだろう。ハムストリングが常に過度な伸張をしていることが、いわゆるエンジンでいうところのアイドリング状態を生み、居つくことのない動きを生み出すわけだ。そう考えれば、股割りが古来より相撲の稽古で重要とされてきたこともよく分かる。限られた空間の中で互いにバランスを保ちつつ相手を崩すためには、足をかためることなく動く必要があり、筋肉では骨で立つ必要がある。また居つくことなく即座に動く必要があり、これもまた股割りで養うところだ。「丁度、ハムストリングが弓の弦が引き絞られて、いつでも矢が放たれる状態ともいえ、股割りはこの弓を強くする過程なんです。ですから腹がつかない段階でも、股関節が回転して重心が前方移動すれば、それだけでハムストリングが活性化した、いつでも動ける上体になるわけです。股を割る過程そのものが股割りなんです。無理なくじっくり試してほしいですね」古来より日本に伝わる股割り。ともすればストレッチの一つとして見過ごしてしまう運動に、武術はもちろん動きの構造を見直す、”型“が存在しているのだ。是非、ご自分のペースで味わってほしい。

 

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