筋肉への意識は動きの妨げになる/キネステジアとプロプリオセプション

個人指導で基本動作の動きの流れをみていると、ブレーキが入ったことに気づかないまま動作を連続させようとしている人が多い。これは、いわばその人の動きの癖といえる。いいかえれば無意識に自動的に行われている動き。

なぜ気づくことができないのか?

私が何を意識して基本動作を改善しようとしているのか?と聞く。

すると、「筋肉」を意識している人が多い。弱い筋肉、過剰に作用してしまう筋肉、筋肉の連動性、などを動きの中で意識しているという。

私のリハビリトレーニングは深部感覚(固有感覚)を高めることが目標にある。「筋肉」の意識というのは、それとは別の筋肉・動きの感覚「キネステジア Kinesthesie」 という。仮に健康体操の範囲でこの感覚が高まることを良しとしても、怪我のリハビリや動きにキレを与えるトレーニングにはブレーキでしかない。これで、多くのスポーツ選手がトレーニングで失敗している。深部感覚(固有感覚)は、筋肉の感覚が高まれば、高まるほどに薄れ、自動的に身体の位置、筋肉の緊張、動きの調整する働きを失うのだ。 固有感覚は自己を所有する感覚であることから、感覚が鈍く薄れた状態では自分の癖や動きの状態を把握できず、気づくことができないのだ。

一般の人は、専門的な知識を学んだことがないから仕方がないと思う。例えば、何かの問題で末梢神経に問題が生じ、ある筋肉が麻痺したとする。これを動きの中で意識したとして、筋肉が使えるようになるのか?仮にがんばったとして、ぎこちない動作を獲得できたとしても滑らかに連続する動作の獲得は難しい。大概は、神経経路が断たれているために意識が通ることなく身体、動きを力ませるだけである。このような場合のリハビリでは 麻痺筋肉が自動的に動作の中に参加するようにする、決して筋肉へ意識を入れない。なぜなら、動作の連続性を妨げるブレーキになってしまうからだ。ただ、深部感覚(固有感覚)が高まるために工夫された機能的肢位によるリハビリの方法であるから、実践的であるが一般的なものではない。

また、ウエイトトレーニングが動作の円滑な連続性を妨げている場合も多い。筋肉の不十分な機能状況で負荷をかけつづけることにより 固有感覚「プロプリオセプション proprioception」 を鈍らせている。 競技性にもよるが動きにキレを与える目的の場合は、そもそもの筋肉の機能状況を100パーセントに近づけるために収縮率を上げることが先決だと考える。筋肉、腱、靭帯が充分に機能している状態は固有感覚受容器(プロプリオセプター) が活発になる。深部感覚(固有感覚)が拾える状態に整えることで、自分の動きにとって必要なことがみえてくるはず。 筋肉・動きの感覚「キネステジア Kinesthesie」 から 固有感覚「プロプリオセプション proprioception」 へ感覚の切り替えが重要。

無意識にアプローチするためには意識の置き方にポイントがある。それは、自分の身体に指標をもつこと。さらに強度・安定性を備えた機能的肢位で身体の位置、関節運動の方向、接触時の重さを常にモニタリングすること。動きの指標はゆっくりなテンポの基本動作がよい。その際、筋肉を意識しないこと。 動きにキレを与える場合は、基本動作における深部感覚(固有感覚)が濃くなった後、スピードコントロールの訓練をする。深部感覚(固有感覚)は、失ってみて初めてその存在を実感することができる感覚であるためにアプローチが難しい。しかし、逆に考えれば確実に備わっている感覚であるから物理的で具体的な指標を確実にすることによってアプローチが可能になる。

今後はさらに臨床の質を高めるとともに、動きにキレを与えるためのトレーニング技術を一層高めていきたいと思う次第です。

 

 

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