1.骨盤おこしセミナー・初めての東京 2008年07月23日〜6.四回目の骨盤おこしセミナー 2008年10月26日

文 中島章夫(動作術の会)

はじめに

19日(土)と20日(日)はTakahiroさんこと中村考宏さんの「骨盤おこし(股関節トレーニング)」東京セミナーが開催された。Takahiroさんは、柔道整復師で鍼灸師であん摩マッサージ指圧師でプロフェッショナルスポーツトレーナーなのだが、何よりわたしをmixi に招待してくれた、mixi の親なのである。「mixi? 何それ?」という私だったが、「身体操作コミュニティ」というのをやっているから読んでみて、と言われて恐るおそる入会して早二年。 たくさんの知り合いがmixi の住人であることも知ったし、mixi のおかげで知り合えた人も多い。これもTakahiroさんのおかげだ。そのTakahiroさんと知り合ってからは、五年ほど経つ。ある身体操法の掲示板で意見交換をしたのがきっかけで、メールのやり取りをするようになった。ここ数年、その研究の成果が「骨盤おこし」という名称で、いくつもの雑誌で紹介されるようになった。そのトレーニングのひとつである「ボールあぐら」は、わたしの本のなかでも紹介させてもらっているし、実際稽古の中でも使っていた。しかし自分流に使っていたので、オリジナルの「ボールあぐら」はどういうものだろうか、と思っていたのである。つまり、今回はじめて本人に会うということである。東京でのセミナーは武術の稽古関係の人が多いということで、「身体を動かす」ことを中心に据えたセミナーができるとTakahiroさんは喜んでいた。というのは、これまでの健康雑誌などでの扱いが「骨盤おこしダイエット」、「四股すわりダイエット」とダイエット絡みでばかり取り上げられることに、いささか辟易としていたようなのだ。しかし当人が、1年間で体重90キロから68キロに、ウエストが96センチから70センチになったということから、当然そこにスポットが当たるのは無理はない。ともかく自然体を追求すると、適当な体重や体型になるということなのだろう。以下は報告というより、感想。

「骨盤おこし」は思いのほか大変

セミナーは土日で計二回行ったが、二日で50名を超える参加者があった。セミナーの基本は同じだが、参加者の反応や質問などによってどんどん展開するので、同じ内容のくり返しということはなかった。というより、基本の「骨盤おこし」そのものが想像していたものと大部違っていて、それがけっこうショックだった。以下は印象に残っていることを書くので、一回目と二回目での話が混ざっている。「骨盤おこし」は、おそらく一般的には「骨盤を立てる」というのかもしれない。骨盤を股関節を支点に前傾させていくことである。「骨盤おこし」は雑誌社が付けた名称のようだが、「寝ている骨盤を起こす」というイメージでとてもわかりやすい。よく骨盤を正しい位置にするクッションとかの商品があるが、Takahiroさんの提唱する「骨盤おこし」は、「骨盤を立てれば良い姿勢」などという生易しいものではなかった。1日目はイスに腰かけて、2日目は正座で行ったが基本はまったく一緒である。まずTakahiroさんが何人かの骨盤を「立った状態」にしていくのだが、ほとんどというか全員が骨盤後傾しているという。つまりほとんどの人が坐骨ではなく、坐骨結節の尖がった骨で座っているのだと言う。坐骨できちんと座ると、坐骨の端は手が入るぐらい浮く。練習するためには恥骨で座るぐらいの感じにするのである。こうすると肛門も後ろの方を向く。こうするとみんなお辞儀をしているぐらい上体が前傾してしまう。その骨盤位置で、ただ上体を起こせば当然腰椎を曲げることになる。Takahiroさんは「腰を曲げてはダメ」と言う。だからみんなお辞儀状態である。 もちろん人によってお辞儀に深さはいろいろだが、正面を向ける人は誰もいない。お辞儀状態で、顔は正面を向ける。そして胸を前方にずうっと出して行くようにする。その姿勢を維持するのは大変なので、イスの場合ならたとえば前に置いたもうひとつイスとか、テーブルに手を付く、あるいは壁に手を付くなどして「骨盤のおきた状態」をからだに覚えさせるようにする。正座ならもっと簡単で、前に手を付いてしまう。 この「骨盤おこし」の練習で大事なのは、骨盤を前傾させて行くときに背中や腰に力が入ったら、元の姿勢にもどってやり直すこと。背中の緊張があるままやりつづけても、間違った姿勢なのでからだに悪いだけである。このとき「骨盤を前傾させる」と背中の緊張が出やすいので、顔を正面に向けて、胸を前方に出して行くようにすると、結果的に骨盤は前傾する。全体が「井桁崩し」のように変形するのである。いずれにしても、この骨盤がおきた状態は、直接見てもらわないと分からないかもしれない。想像以上に前傾するのである。ではこの骨盤の位置で、状態は楽にすっと立つのだろうか、というのがみんなの疑問であった。つまり腰を反らさずに姿勢が立つのかということである。Takahiro さんこう言う「骨盤を後傾させて長い間生活していると、からだの前面が縮み、背面が伸びていわゆる猫背になっている。それを逆転させるだけでいい。背面が 縮んでくると肩甲骨が楽に動くようになる。前面は伸びて軽く張ってくる。そうなれば前傾した骨盤に上体がスッと乗るというのである。そうそうこう言うことも言っていた。「股関節はどこにあるのか」。特別に勉強した人以外のほとんどの人は、足の付け根あたりにあると思っている。股関節は「おしりのえくぼ」のところにある。つまり思っているより後ろにあるのであった。だから骨盤が後傾しているということは、座っていると股関節の上に乗っているわけで股関節の自由を奪ってしまう。立ち上がるときに一度股関節を自由にするための動作を入れないと立ち上がることができない。骨盤をおこすということは、すぐに立ち上がる動作に移れるということである。つまり「骨盤がおきた状態」とは動きのある姿勢とも言える。

「骨盤おこし」の姿勢

Takahiroさんは次のように言う。「自分の言っていることは解剖学的に、もっとも自然な関節の位置を言っているだけで、特別なことを言っているわけではありません」と。立位。足は腰幅に開いて立つ。つま先は軽く外側を向く。体重は内側(親指側)にはかけない。小指側にかかるようにする。「土踏まず」はその名の通り、踏まない。 特に最近の女性は内側に強く緊張させている人が多い。足の外側でからだを支えると脚の力が抜ける。膝も力を抜いて少しアソビがあるようにする。腕は肘の裏が正面を向くように自然に垂らす。手のひらも正面方向を向く。腕を内側に巻いている人が多い。そのため肩が前に出て胸をすぼめた形になっている。肘の裏が前を向くようにすると胸が開いてくる。もちろん骨盤はおこす(前傾させる)。さてこの「骨盤おこし」の姿勢はとても懐かしい感じがする。それは昔、甲野先生が稽古していた「鹿島神流」の姿勢を思い出させる。同じく甲野先生が研究している「肥田式強健術」の姿勢。その頃わたしも、当然腰を反らせた姿勢をとっていた。25年ほど前のことである。しかし今回のセミナーで、もしかしたらわたしはその姿勢を誤解していたかもしれないと思った。つまり骨盤を前傾させることと、背中を反ることを混同していたかもしれないのである。セミナーでも骨盤を前傾させるというと、腰椎を反ってしまう人がいた。しかしそうすると腰を痛めることになる。能でも腰を張った釣腰にするが、腰痛になる人が多いと聞く。もしかすると「骨盤の前傾」と腰を反る(腰骨を反る)こととが混同しているためかもしれない。どちらも「腰」と言うからだろうか。Takahiroさんの提唱する「骨盤おこし」の姿勢は、当然わたしの稽古している甲野先生の姿勢との違いが多い。しかしそうだろうか、とも思う。甲野先生が井桁以降言ったのは「馬の背にならないように」と、背中が馬の背のようなカーブを描く姿勢を戒めている。これは背中が反ることを指しているので、骨盤の前傾のことではない。胸も張らずに、むしろ含むように凹ませることがいいと言うが、動きの中では背中側が出たり胸側が出たりする。骨盤も前傾したり後傾したりする。つまり姿勢は固定化されずに、状況々々で変化しているのである。ここで思い出しすのは新体道創始者の青木宏之先生が言ったことば。「腰はある時は反り、ある時は反らない」これはつまり、骨盤が股関節で滑らかに自由に動くことに他ならない。武術への適応はTakahiroさんではなく、稽古する側の問題である。腰を反らせるのではなく、骨盤をおこした状態での技の変化を、しばらくはいろいろ試してみようと思う。(今のところは、馬貴派八卦掌のような正反対の姿勢については考えないようにしようw)さて、「骨盤おこし」についての日記はまだまだ続きます。

立位体前屈

「骨盤おこしセミナー」には「(関節トレーニング)」という副題(?)が付いているのだが、そのことと、骨盤おこしのユニークさが爆発したのが、立位体前屈だった。まあ「ユニーク」というとTakahiroさんに叱られるかもしれない、「常識的なことしか言ってないですよ」と。でもそこにいた20数人が全員、違う認識をもっていたとしたら、どちらを「常識」と言うのだろうか(笑)。つまりこういうことである。「立位体前屈ってどうやりますか」の質問に、全員が手の指先を足の指先に触るように体を折る。手のひらが床に楽に付く人もいれば、膝下あたりまでで止まってしまう人もいる(いわゆる「体が硬い人」ね)。しかしTakahiroさんは言う。「前屈なのに、なぜ後ろに行こうとするんですか」たしかに手を床に付けようとして、お尻を後ろに付き出している人が多い。また「膝裏をなぜ伸ばすんですか」とも言う。「膝にアソビを持たせておかないと前屈しにくいでしょう」と。しかし学校でやった立位体前屈では、指先が床から何センチプラスかマイナスかということだったから、膝を弛めていたら怒られたりしなかっただろうか。Takahiroさんの言うところの「正しい立位体前屈」のやり方はこうだ。膝は軽くゆすって動くぐらいのアソビを持たせておく。股関節から上体を折っていく。すると前に倒れそうになるから、そのまま両手を床に付いて、体重を両手のひらで受ける。つまり膝を伸ばした四つん這いの姿勢である。足下のそばに両手を付ける人もいるが、かなり前方に付いている人もいる。でもそれでいいのだと言う。「ね、誰でも立位体前屈はできるでしょう」。ただやってみると、付いた両手に体重をかけることができない人がけっこういる。これはそのことができないのではなく、「立位体前屈」のイメージとあまりにかけ離れているために、どういう姿勢をしたらいいかわからないのである。そこでTakahiroさんは、次のような手順を指示した。まずしゃがんで、前方に両手を付き体重をかける。そのまま膝を伸ばしていく。もちろん膝は伸ばしきる必要はない。伸びるところまでで良い。なんどかそれを繰り返してから、立った状態からその姿勢を再現してみると、それが「立位体前屈」になっている、というわけ。こうすると両手に完全に体重を乗せるという要領がわかる。あとはこれを「立位体前屈」だと納得するかどうかだけど(笑)。しかし、この手順でやっていると、はじめけっこう遠くに手を付いていた人が、徐々に足元近くに手を付けるようになってくるようだ。昨 日、半身動作研究会@恵比寿の稽古で、セミナーに参加した「ミスター硬派(からだが)」の名を欲しいままにしているT氏が、「こんな風にやるんです」とや り方を見せていたが、驚いたことに足先から10センチほどのところに手を付いていた。セミナー当日は40センチほどの距離があり、まるでこどもを遊ばせる ためのトンネルのようだったのに(笑)。だからといってすごく膝を曲げているというわけではない。楽に伸ばしている感じ。適切に動けば、パフォーマンスは上がるものだと思った。

ボールあぐら

「その1」に書いたように、わたしは稽古に「ボールあぐら」を取り入れている。それはボールの上に座った、腰から上の胴体をまっすぐに保つことが技にとって有効かを知るためと、その感覚を得るための稽古法としてであった。その「ボールあぐら」の考案者が今回の講師であるTakahiroさんこと、中村考宏さんなのだが、わたしがこれを稽古に取り入れた当時は、大腰筋トレーニングとしての意味合いが強かった。そこでわたしは自分に都合の良い形で「ボールあぐら」を取り入れていたのである。わたしのやり方が自分の稽古としては有効だと思っているが、それでもこの機会にオリジナルの「ボールあぐら」を知っておく方が良いと思い、事前にそのトレーニングをリクエストしていた。そこで参加者でボールが手元にある人には持参してもらうことにしていた。しかし、セミナーで骨盤をおこした座り方を、1日目はイスで、2日目は正座でやってみて、これは「ボールあぐら」どころではないと思い知ったのである。イスに座るのも大変な「骨盤おこし」座りを、ボールでやるなんて10年早い! のであった。中 にはボールを当日買って来た人たちもいて、たいへん申し訳なかったのだが、「ボールあぐら」もけっきょく骨盤をおこすのに合わせて、上体が前傾せざるを得 ず(つまりそれが現時点でのその人の「まっすぐ」だからだが)、ここまでレベルが違うと最初の目論見はどこえやらで、わたしたちにはその前にもっとやるべ きことがあるということである。セミナーのなかではないが、ひとつ新しいやり方を教わった。前傾せざるを得ない姿勢の人がボールあぐらをする場合、もうひとつのボールを前に置いて、そこに手のひらを当て体重を乗せる、というやり方である。これは中心の感覚を練るのにいい方法だと思った。あとはイスに浅く腰かけるか、正座で、顔を前に向け胸を前に出して、股関節を支点に胴体ごと骨盤を前傾させていき、尻よりも腿の裏で座っている、あるいは恥骨で座っているぐらいの感じの姿勢を保つことを、日に何度か行うことが効果的だろう。

アフターセミナーでのネタ、いろいろ

セミナーのあと、Takahiroさんを囲んで食事をしていて、次回のセミナーで取り上げてほしい面白い話がいくつもあった。

  • 「下駄でのトレーニング」
  • 一本歯の下駄より、二本歯の下駄(普通の下駄でも、朴歯の高下駄でも)前の歯で歩くようにすると良い。

  • 「横座り(女座り)」
  • 横座りはからだを歪めるという話から、きちんとした横座りをすればそういうことはない、と言う。タイの女性は横座りをするが、からだを歪めることはない。正しい横座りをすれば大丈夫。同じ流れで「正しい脚の組み方」の話もでる。ファミレスだったので、実際の動作をやることはできなかったので、次回はぜひそのやり方を知りたいものだ。

  • 「首のシワも取れる」
  • セミナーのなかでも、骨盤後傾をしていると、脚に余分な働きをさせるので、脚も太くなるし腰も大きくなる。毎日筋トレしているようなものだから、という話はあった。アフターで、骨盤をおこし、顔を前に向け胸を出すようにしていると、首の前面が伸びてくるので、首も長くなるしシワが取れてくるのだ、という話があった。セ ミナー直後ということもあり、ファミレスではみんな骨盤をおこした姿勢で座っていたのだが、その中の年配の女性の首のシワが(そこで二時間以上ペチャク チャ話していたのだが)、ほんとうに無くなっていったのには皆がびっくり。無くなったというより、首の皮が伸びて目立たなくなったのだろうが、逆に言えば 骨盤を後傾させ猫背にしていると首が縮まってシワになるというわけである。また背中が楽になってくると肩甲骨も弛み、肩が落ちるので首も長くなってくるのだろう。

ところで「これから毎日骨盤をおこして生活しよう」と皆言っていたが、Takahiroさんは「それがなかなか続かないんですよ。よほど気を付けないと二、三日すると元にもどってしまう」というようなことを言っていた。実際一週間経って、早稲田の講習会に来ていたセミナー参加者たちとお茶を飲みに行ったら、四人全員が骨盤を後傾させてソファに座っていた(笑)。もちろんそんな風にグデっとしたいときもあるけれど、そんな姿勢で「骨盤おこし」の話をしているから笑ってしまうのである。一応「骨盤おこし東京セミナー」については今回で終わり。ただ「骨盤おこし」について気付いたことなどはまた書くことにする。

2.「第1回骨盤おこしセミナー」を受けてから、考えたことをダラダラと書いてみる

骨盤はおこす、腰は反らせない

「骨盤おこしセミナー」で、最も大きな収穫は「骨盤をおこす(立てる)」ことと「腰を反らせる」こととは関係がないということ気付いたことである。今さらこんなことを言っていると笑われるかもしれないが、しかたがない。「腰」とひと言でいっても、「骨盤」なのか「腰椎」なのか、両方なのか、それは使う人によって違う。だから「腰を反らせる」と言ったとき、骨盤を前傾させるのと腰椎を反らせるのとを混同してしまうのである。言っている人間もあまり区別していないかもしれない。

骨盤をおこせば、股関節が自由になる

これも笑われることかもしれないが、骨盤が後傾していると股関節が圧迫されて動きが制限されてしまう。すこしだけでも骨盤を前傾させると、股関節は自由になる。スクワットのときに、ほんのわずか下腹を前に出すようにして骨盤をおこすだけで、楽にできるようになる。くれぐれも背を反らすのではなく、骨盤をちょっと前傾させること。

釣瓶の原理

股関節が自由になるのを、もっと極端に大きな動きで確認できる。骨盤を少し後傾させてしゃがんでみる。途中でしゃがむのが辛くなる。次にしゃがんだ姿勢から上体を前傾させ、相撲の立ち合いのような形にする。そのままの姿勢(つまり上体を前傾させている姿勢)だと、立ったりしゃがんだり楽に出来る。これはおしりを後ろに突き出しているからではない。骨盤を前傾させたからである。で、その前傾は少しでも股関節は楽になる。ここで思い出されたのは甲野先生の「釣瓶の原理」。イスから立ち上がるとき、膝に置いた荷物を落としてその重さをもらって尻が上がるので立ち上がる。あるいはちょっとお辞儀すると頭の重さで尻が上がってきて立ち上がる。逆に「平蜘蛛返し」のように、上体を前傾した姿勢から、腰が下がるので頭が上がってくる。どちらも骨盤の前傾により、股関節の可動性をあげていることにカギがあるのではないか、と思い至る。

骨盤おこしは「トレーニング」なのだ

ところで、骨盤おこしセミナーで各自「骨盤のおきた状態」にしてもらうと、ほとんどの人がお辞儀をしているように前傾してしまう。それだけ骨盤を後傾させていたということだ。そのまま上体を起こそうとすると、背中を反るしかないが、講師の中村考宏氏は「腰は反らない、緊張させない」と言う。だからお辞儀のままなのだが、「これでは生活できない」と言う人がけっこういるのが面白かった。中村氏の提唱する「骨盤おこし」は、「この角度が正しい骨盤の位置なので、なるべくその角度で日常を送りなさい」などというナマ易しいものではなかったのである。というより、それを難しくしているのは、骨盤後傾のまま暮らしてきてしまったわたしたちのからだなのであるが、その骨盤の位置とその上に伸び伸びと乗る上体になるためのトレーニングが、前傾した姿勢なのである。前傾の具合は骨盤の後傾の具合によって人様々であるが、その姿勢を保つ時間を作ることが、トレーニングなのである。これは体操や瞑想の時間をとるのと同じことであり、日常生活で無理矢理骨盤をおこしておくことではないということである。

坐骨で座る

わたしが日常で気を付けているのは、座るときに「尻の穴で座らない」程度である。坐骨で座る、つまり骨盤を少し前傾させて太股の部分で座るようにしている。この角度は骨盤がおきた角度には程遠いが、それでも前に書いたように、股関節が開放されるのには充分である。こうすると座るのも立ち上がるのも楽だし、その時の骨盤の角度を保って歩けば、階段の上り下りも楽である。
歩いていても、股関節で歩いている感じがして足下は軽い。そういうことを観察するのも楽しいことだ。

骨盤おこしと出っ尻(デッチリ)は関係ない

中村考宏氏のおしりはキュッと出ていて、キューピーさんのようなのであるが、だからといって骨盤おこしは尻を出すことだと思うと間違ってしまう。おそらく人によっては、それほど出っ尻に見えない人もいるだろう。重要なのは骨盤のおきたポジションと、その上の上体が伸び伸びしているかどうかなのだと思う。

3.「骨盤おこしセミナー」in東京 2008年8月30、31日

第二回骨盤おこし(股関節トレーニング)セミナーが、8月30日、31日と開催された。毎度、レポートは苦手なので思い付いたことをどんどん書いてゆこう。

胸椎を動かす

今回、もっとも印象に残ったのは「骨盤をおこすこと」と共に「胸椎を前に押し出すこと」。このことは前回のセミナーでも講師の中村考宏さんは言っていたのだが、今回はそのときはあまりよくわからなかった。しかし前回セミナー後、骨盤おこしのことをあれこれ考えて、骨盤おこしは肩甲骨の間にスッキリとした「谷間」ができることと不可分だと感じていた。つまり胸 椎が「猫背」とは逆に弓なりに凹むということである。これは以前、甲野先生が「背中を抜く」と言っていた状態であろうと想像していた。それが今回「胸を押し出す」「胸椎を押し出す」という言い方で、はっきりしたようだ。これに関して中村さんが言ったこと。

「現代日本人は腰椎と頚椎を動かすのは得意だけど、股関節と胸椎を動かすのが苦手」
「股関節と胸椎が動かない分、腰椎と頚椎は余分に動かないといけない。それでそこを痛めることが多い」
「腰椎と頚椎のヘルニアはよくあるが、胸椎のヘルニアはあまり聞かない。それだけ胸椎は固めて動かすことがないということである」
「セミナーでやっているのは、腰椎、頚椎の動きに、股関節と胸椎の動きを足してやること。そうすれば腰椎、頚椎の負担が減って、体幹部が働くようになる」
「股関節、腰椎、胸椎、頚椎がきちんと動いてはじめて体幹部が働いているといえる」

特に「これまでの動きに、股関節と胸椎の動きを足してやる」というのは、前回は言っていなかった気がする。なんせ基本的にメモを取らない主義なので、自分が覚えていないだけかもしれないが。これを強調するのはとても大切なことで、ともすると骨盤おこしが、股関節のトレーニングだと思われがちだが、すべての関節が動くようにするトレーニングなのだということが今回分かった。これも前回から中村さんは言っていたと思うが、「聞く耳」がなかったのだろう。

「横座り」

前回、懇談会の席で話題になった、「正しく横座りや脚の組み方をすれば、からだを歪めることはない」というのを実際に指導してもらった。これは整骨、カイロなどの多くの治療法で「横座り(女座り)」や、イスに座っているときに脚を組むことがいけないとされていることについて、骨盤おこしの立場からの提案であった。「横座り」については、タイ女性の伝統的な座法ということで、わたしの想像とは違うものだった。わたしは骨盤をおこした姿勢での正座から、ただ横に腰を落とすものかと思っていたのだが、実際は正座の片方の足に体重を乗せ同じ側の手を床に付いてからだを支え、反対の足を横に崩すというものだった。つまり「半分だけ正座」なのである。そしてある程度の時間が経ったら、左右を入れ替えるのである。

「脚を組む」

「脚を組む」では同時にスカートの女性がキレイに座る方法も行った。本来は骨盤幅に膝が開いているのが良い。すくなくとも骨盤をおこして座るトレーニングのときは、腰幅と両膝の間隔が同じで、膝の向きと足先の向きを揃える。こうして骨盤をおこして座る感覚が掴めたら、足下を揃える(靴の内側を付ける)。足下はくっつけるが、両膝は軽く開いたままでそこに両手を重ねて置くと、膝をピッタリ付けなくてもキレイな座り方になる。その座り姿勢で脚を組むと、骨盤がおきているために姿勢が崩れることがない。それでも時間と共に組む脚を入れ替えることが大事。

ポジションと方向

講師の中村さんは、ことあるごとに「大切なのはポジションと方向です」と言う。それはたぶん、自然な骨の位置とそれを保つ筋肉、自然な関節の動きとそれらを保証する筋肉の動く方向ということじゃないかと思う。たとえば大テーマである骨盤を考えてみると、後傾している場合は筋肉が引っ張る(緊張する)ことでそういう傾きになっている。骨 盤をおこす(わたしの感覚では前傾させるといった方がいいが)というのは、反らせることではない。本来あるポジションに持っていくだけなので、それを保つ 筋肉が、もっともリラックスできるのだと言える。はじめおこすのがけっこうきつく感じるのは、後傾になれて縮んだ筋肉を動かさないといけないからだ。その ためには前傾する方向に動いて行くしかない。腕は自然に垂らせば、手のひらが前方を向くが、それが側面や手の甲が前方を向くとしたら、 肩を内側に巻き込むように筋肉を使っているからで、それは腕の付け根を外旋させるだけでは済まない。胸が肩より前に出るようなポジションにする必要があ り、それには固まっていた(筋肉で固めていた)胸椎が自由にアーチを前方に作れないといけない。胸椎を自然なポジションに置く必要があり、それには筋肉が その方向に動かなくてはならない。つまり「自然な姿勢を保つ」ことがすでに運動ということだ。逆に不自然な姿勢を保つには、筋肉はその姿勢のために収縮し固めているということで、そこには自由な運動がないことになる。「自然な姿勢」が伸びやかに感じられるのは、そういうことだったのか、今さらながら思う。

小指

前の日記にある「あやしい足指」の写真だが、ただ面白がってやっているのではなく、ちゃんと理由があるところがセミナーたる所以である(笑)。わたしの場合はただ面白がってやるだけである。手の小指側の重要性は武術・武道をやっている人間なら誰でも知っている。大きなペットボトル(たぶん1リットル)のキャップがなかなか開けられないという年配の女性がいたが、そういう人はキャップを摘まむ親指、人差し指、中指に力を入れて、薬指、小指は力を抜いている場合が多い。極端な人は小指を立てていたりする。そうするとキャップを摘まむ三本の指だけでキャップを回そうとする。そこで薬指、小指をキュッと握り込んでキャップを回してみると、三本の指はキャップを掴むためだけに使い、回すのは腕の力を使えるようになる。このように薬指、小指(特に小指)は腕の動きと関係している。
簡単な実験をしてみよう。

かるく拳を握り、最初は親指、人差し指、中指を強く握り込んで、バンザイをするように腕を振り上げてみる。
次に、薬指と小指をギュッと握りしめ、バンザイをしてみる。
どうだろうか。薬指、小指を握った方が腕が楽に上がったのではないだろうか。
だからこそ剣の握りはこのふたつの指で握るし、拳も小指できちんと締めることが重要だと言われるのだと思う。

話は骨盤おこしセミナーに戻って、中村さんは足の指もきちんと小指が働くと、股関節がよりよく動くという。

足の指で拳をつくる

まずは足の指を握れるかどうか。足の指で拳をつくるのは、甲野先生の得意技で、本当に拳になる。そういう意味では中村さんの足でさえ、拳になりかけである。しかし甲野先生のようないろいろと妙な人と比べてもしかたない。わたしは甲野先生の足を見て練習したので(笑)、握り拳が作れるが、驚いたのはセミナー参加者のほとんどの人が拳になっていたことだ。ふつうに握れるものなのかあ、と思っていたら、これだけ握れる人が多いのは珍しい、とのこと。ひとつには武道・武術の経験者が多いこと。あとこの日はプロアマ含めてダンスをする人が多かったためかもしれない。しかし一見握れている足の拳も、中村さんが小指をひょいと挙げると伸びてしまう。握れていると思っていたわたしの小指も、動いてしまう。中村さんの足の拳はしっかり握り込まれていて、小指もビクともしない。また小指が全然動かず、握った形も作れない人もいた。現代人は足の小指をほとんど使わないので、神経が通い難くなっているからだという。中村さんによれば、小指の骨が無くなっている人もいるそうで、小指の爪がすごく小さくなっているのも、小指を使わないためなのだそうだ。そういえば爪は、骨のない指先をしっかり働かせるための支えなのだという話を聞いたことがある。使わない足の小指の爪が退化するのは当然かもしれない。

中村式下駄の履き方

足の指を鍛える方法として下駄を履くのがいいという。しかしただ履けばいいというわけではなく、履き方がある。下駄といえば親指、人差し指を浅く鼻緒に入れて摘まむようにして歩くのは常識である。しかしこのことさえ知らない人がいて、草履でも雪駄でも鼻緒に指を深く指し込んで、カラカラ、ペタペタ歩く人が多く、もはや常識とはいえないのかもしれない。以前から中村さんに鼻緒を摘まんで、ということは聞いていたが、セミナーで実演してみせてくれた「摘まみ方」は想像していたものと違っていた。このセミナーではびっくりしてばかりだ(笑)。その下駄の履き方は、鼻緒は親指と人指し指で摘まむのだが、他の指もグッと握り込んで拳を作って履くのであった。上の写真ではあまり握っているようには見えないが、それは用意した下駄がわたしの下駄で、中村さんには鼻緒がきつかったためである。わたしにとっても足指全部を握り込んで履くには、もう少しゆるめでもいいくらいである。つまり中村式だと、下駄に足指の腹ではなく頭を押しつけて歩く形となる。
さらに下駄でのトレーニング法として、二枚歯の前の歯だけで歩くのがいいそうだ。(この場合、高下駄の方が適していると思う)一本歯の下駄より、二本歯の前の歯だけで歩く方が、骨盤おこしの立場からはよいトレーニングになるのだとのこと。その理由は、握った足の指の拳頭に当たる部分(MP関節)の真下に前の歯があるためである。そ の場所できちんと地面を捉えながら歩くと、重心が落ちるべき位置(腹の重さが落ちる位置)がわかるようになるのだそうだ。骨盤おこしでは運動方向が常に前 へ前へと向かうためだろう。これは常に前のめりになっているという意味ではなく、いつでもすぐ動き出せる体勢にあるということである。まあ考えてみると四足動物ではここがカカトなわけだから、わからないでもない。しかし中村さんは、ここで重さを受けることが大事なのであって、ここで地面を蹴ってはいけないと言っていた。下駄の前の歯だけで歩くと、この受けるだけで蹴らないという感覚がわかるだろう。

中村式靴の履き方

下駄は歯があるためにそういうトレーニングになるが、草履などの歯がない履物も拳を作って履き、足指の頭が履物に接するようにする。靴も拳を作り、靴の底に足指の頭が付くようにする。このとき最も大切なのは、小指の頭がしっかりと履物に接することである。言いかえると、小指をしっかり握って指頭で地面を捉えながら歩くということである。小指を握り込もうとすれば、他の指も自然に握ることになるので、ともかく小指を意識する。これは足のアウトエッジで歩くということでもある。いまの日本人、特に女性は内側に力を入れて歩く人が多く、それが外反拇指や扁平足の原因だと中村さんは言う。そのためスニーカーしか履かないのに外反拇指になる人が増えているらしい。しっかり指を握ることで足のアーチを作る助けにもなる。そしてハイヒールもこの足で履くのだと言う。確かに指の頭でギュッとからだを支えるのは良いかもしれない。足の拳の小指で地面を捉える本当の意味は、そのことによって股関節が動きやすくなるからである。小指が利いてはじめて足は十全に動くのであって、この歩き方で小指を鍛えるわけである。

しっかり掴めてから離す

セミナー後のよもやま話で、中国武術では足指で地面をしっかり掴むといわれるが、日本の剣術では武蔵をはじめ、足指を浮かせるものがけっこうある、という話が出た。しかし考えてみると、わらじは指先とカカトをはみ出させて履くものだし、足半などははじめからMP関節の下専用の履物のようなものだ。つまり昔の日本人は足 指でしっかり地面を掴んで歩いていたのだろう。その前提の上で足指をすこし浮かせるという身体操法が、意味あるものとなった可能性がある。最近甲野先生が、カカトを浮かせる方がより不安定になって早く動ける、と言い出したのだって、しっかりカカトを付ける動きをしてきたからであって、はじめからカカトを上げてみても、ただ安定を求めて動きに制限を加えてしまうことになりかねない。やはりこうしたもは、質が転換する過程を抜きにして結果だけ手に入れようとすると、痛い目にあうだろうと思うのであった。良いものがそんなに間単に手に入るはずないのである。

4.三回目の骨盤おこし東京セミナー

2008年9月28日に三回目の骨盤おこし東京セミナーを開催した。今回は主催者であるわたしの都合で、一日の午前、午後での二回という愛知県に住む講師のTakahiroさんには強行スケジュールになってしまった。次回(四回目)も10月26日(日)1日で2回の、同様の日程なので申し訳ない思いである。また参加する人にとっても、土曜日の夕方にあるとうれしいという声も多かった。反対に一日であったために、二回通しで出られて良かったという人もいた。今 回は、雑誌に載ったTakahiroさんの記事を参考に骨盤おこしを実践している人が、直接の指導を受けたいとわざわざ香川県から参加された。娘さんが東 京在住であるために、そういう決断もされたのだろうが、股関節に故障を抱えていたので、一日で二回のセミナーが都合がよかったようだ。参加者の状況は様々なので、一概にどういう方法が良いか言えないようである。しかしそれでもTakahiroさんにとっては一泊した方が楽だろうし、時間的に余裕ができるために、わたしもいろいろ話しを伺える。今回はほとんどお話する時間が取れなかった。日曜の9時30分に築地市場あたりまで出てくるのも大変だなあ、と思ったが、一回目でも20名近く、午後も定員を少しオーバーする27名の参加があった。半数近くがリピーターであった。

及第点を取る(?)

セミナーはまず、はじめての人に骨盤をおこした状態を体験してもらうことから始まった。「股 関節はどこか」という質問には、いつも通り「そけい部」や「お尻の横」という答えが多かった。なかなか「ヒップジョイント」で、お尻に力を入れて立つとで きる「お尻のエクボ」、つまり後ろ側にあることを知っている人は少ない。かく言うわたしも、横にあると思っていた口であるから、笑えない。次に各自正座で、自分が思う骨盤をおこした(立てた)状態にしてもらう。するとまず例外なくお尻と背中がまっすぐ、みたいな姿勢になる。一回目はここで突然の(わたしにとっての)ハプニング。Takahiroさんがわたしに、その人たちの骨盤をおこしてみて、と振ってきたのだ。いわば師匠の前でのテストである。わたしも自分の稽古会などで、Takahiroさんの目のないことを幸いに、偉そうに「ここまで行かないと骨盤はおきないですよ」とかやっているから、なんだかそれがお見通しだったのかな、などと思ってしまった。なんとかわたしの感覚で及第点をいただけて、ホッとした。しかしこの及第点も、わたしが「骨盤おこし」を生業にしているわけではないためだろう。Takahiroさんはセミナー経験者が、いろいろ工夫して「こんな 風にしているんですけど」と見せると、もちろん見当ハズレでない限りだが、「おお、いいじゃないですか!」などと誉めるのである。これは指導時も同様で、トレーニングの方向性が合ってくると、「そうです、いいですねえ」とすごく誉める。すかさず「まだまだこの先があるんですよ」と言うのを忘れないが。

プロ、アマ、一般人

Takahiroさんは専門家に対しては、その専門の動きに関係するトレーニングの場合、けっこう厳しいダメ出しをする。今回はプロのダンサーが参加していたが、相手が男性であるせいかもしれないが、大変厳しい指導だった。マイミクmariさんが、歩きや姿勢の工夫を見せると「いいじゃないですか、それ」と言っていたが、マイミクあーさんが専門のコントラバスの演奏姿勢につい てはけっこう厳しかった。もっともこれは男女の差ではなく、mariさんもフルートの演奏姿勢そのものであったら、厳しかったかもしれない。そう言えば今回、卓球の人が数名参加されていて、素振りのフォームでは熱が入っていた。それでもダンサーの方への指導は一段と凄みがあったのは、彼らがプロダンサーだと知っていたからかもしれない。プロに要求されるもの、アマに要求されるもの、一般の生活に要求されるもの質に違いがあるからだろう。前回のセミナーのとき、「だんだんマニア好みの体型になってきました」と下腹(丹田)をグッと膨らませてみせたが、「みなさんはこうなる前で止めていいんですよ。そうすれば格好良い腹でいられますから」と言っていた。「マニア好み」というのは、肥田式とか呼吸法とか、当然武術などに見られるようなドンと張り出した下っ腹のことだ。そうした「超・健康マニア」というのか、ま、そのテのマニアのことである(笑)。で、普通に健康に暮らして行くだけなら「程」というものがあるということだろう。

「腹圧をかける」

「腹」ということで、話はまたちょっと脱線するが、「骨盤おこし」では「腹圧をかける」ということが大事になる。ベルトをキュッと締めて、そのベルトを腹を膨らませてパチンと弾いて切ってしまうつもりで押す。武道で帯を締めているなら、そこに腹をグッと当てるように腹を膨らませる。腹圧は呼吸とは関係なく、吐いても吸っても止めても膨らませておく。し かしこの「腹圧をかける」ということができない人が増えているらしい。特に女性で苦手な人が多いらしいが、今回は「腹に力の入らない若者代表」みたいな男 性が参加していたので、多いに盛りあがった。まあ、マイミクで武術の稽古もしているんだけど、どうもへナへナとしていると思ってはいたが、腹を膨らませる ことができないとは思わなかった。それでもセミナーが終わる頃には、少し力を入れることができるようになっていた。
参加した セラピストの女性は、さすがに腹圧をかけるのは上手くて、ポコッと出るが、それがとてもいやなのだと言う。セミナーが終わってから行った店で、「女性に とっては問題ですよ、これは」とか言っては腹をポンポンとたたくので、叩くのは止めなさいとたしなめたのだが、つまり叩きたくなるほどポコッと出るのである。しかしそこで面白いことに気付いた。その女性は腹を見ながら、つまり下を見ながらイスに寄りかかっていたので、ミゾオチから下がポンと飛び出していた。これは骨盤が後傾していて腹部が折れている「よくない」姿勢だったわけだ。その人はセミナー中は、骨盤もある程度おこした姿勢ができていたので、骨盤をおこして立ってみてもらうと、そのぽっこりしたお中のままで、すごくキレイな立 ち姿になったのである。もちろんその腹は、贅肉が付いて出ているのではなく、内側から圧をかけて張った腹であるからなのだと思うが、からだの前面がふわっ として実に女性らしいやさしいラインなのであった。骨盤をおこすだけでスタイルの印象がここまで違ってくるのを目の当たりにして、スタイルは骨格のポジションなのだというTakahiroさんのことばが納得できた。「腹筋するより骨盤おこせ」なのである。

「胸椎を伸ばして行く」

今回、正座で骨盤をおこしながら前傾して行き、そこから顔と胸を前に押し出してゆくという、いつものトレーニングでいくつかヒントを得た。以前は「胸を前に」と強調していたTakahiroさんが、今回は背骨を前に伸ばして行くという言い方をしていたのだ。「身長をさらに高くするつもりで」と。この感覚は大事で、元々腰痛のある人は胸椎が動きにくいので、「胸を前に」というと腰で反ってしまいがちだ。すると腰が痛くなってしまう。腰痛がなくても、胸椎が動きにくい人は多いので、同じく腰に負担をかけてしまう可能性が高い。腰痛持ちはそれをすぐ痛みで知ることができるが、ヘタに健康だと知らずに無理を重ねることになる。「痛みがあるということは、からだが動き方を教えてくれているのだから、ラッキーなことだ」とTakahiroさんはよく言うが、ほんとうにそうかもしれない。で、胸椎だが、股関節から骨盤と胴体を前傾させ、さらに背骨を前斜め上にずうーっと伸ばして行く。背骨が伸びたところでさらに、首の下の皮を伸ばすように顎を前斜め上に突き出して行く。それによって胸の皮を伸ばしていくような感じで、胸を前に張り出して行く。腰が痛いという人にこの手順を教えたら、腰が痛まずに胸を出せるようになった。胸を出すのが上手くできた人の背のカーブは、離陸する飛行機の描く軌跡のようである。胸椎がよく動く人だと、そこのカーブが宇宙へ飛び出して行くように上を向いている。Takahiroさんは「頭を胸の上に乗せるポジションを目指せ」という。もちろん無理は禁物。ともかく股関節を畳んで骨盤と上体を前傾させ、さらに背骨をずうーっと前方斜め上へ伸ばして行くことから始めよう。

前面の皮膚を伸ばす・背の皮膚を縮める

胸椎を前に押し出して、胸をグウッと張ってみると胸の皮膚が引っ張られて広がるのがわかる。胸椎が動き出すと肋骨を広げることもできるので、そこの皮膚も広がろうとする。これに前に話題にした「腹圧をかける」を合わせると、胴体の前面、下腹から喉までの皮膚全体が引っ張られて広がるのがわかる。Takahiroさんは骨盤おこしをやっていると、前面が伸びてきて、背中が縮まってくるのが感じられるようになると言うが、わかる気がする。背中が縮まり、肩甲骨より胸椎が前に出るようになると、肩甲骨の間に「背の谷間」ができてくる。それを古来芸事で「背を割る」と言うのではないかと思う。「背を割る」と肩甲骨が開放され動きの自由度が増す。肩甲骨は下がり、肩も下がってくる。そうなると当然腕の動きも自由になるということである。こうしたからだの構造だけでも技は変わってくる。というか、こうしたからだ(姿勢)があった上での技であるということだろう。(つづく)

5.「いい姿勢」の説明|TBS「はなまるマーケット」にウッチャンナンチャンの南原清隆

今朝のTBS「はなまるマーケット」にウッチャンナンチャンの南原清隆がゲストで出て、一本歯下駄を紹介していた。ナンチャンは一本歯下駄の愛好者だったのだ。これは番組とは関係ないけど一本歯のナンチャン。「秋元康 ナビゲート 夢中力/南原清隆」きっかけはやはり甲野先生との出会い。「姿勢フェチ」だというナンチャンは、一本歯下駄でダンスの姿勢も変わったと言っていた。

問題はその「いい姿勢」の説明

「日本人は腰を傾け過ぎ(←これは前傾しすぎということ)なので、腰を立てるといい」と骨盤を後傾させたのだ。「この腰を立てるのはヤワラちゃんに教わった」と言っていた。おそらく多くの人が「骨盤をまっすぐに立てる」と言われると、そうしてしまうであろう傾きでこの「腰の立て方」が一般的な「腰を立てる」イメージだろう。骨盤を「ぶらさげてしまう」形である。ナンチャンを見ていて、なぜそうしてしまうのかよくわかる。腰椎の余分な反りを取るためなのだ。腰椎の強すぎる反りは腰痛の原因になるが、骨盤を後傾させると反りが緩和される。腰椎の強い反りは武道やスポーツの動作にも悪い影響を与えるので、それで谷亮子もそういう骨盤の傾斜を使っていたのだろう。骨盤おこしでは、胸骨を前に出すことで腰椎が強く反ることを防ぐ。早い話が股関節から上を前傾させるということだ。スキージャンプの飛行姿勢をタテにしたみたいだ。もっとも足の幅は腰幅だが。そして前傾した胴体の前面が広がって背中側が縮まることで、やがて前傾した(これがおきた状態なんだけど)骨盤の上に上体が乗ってくることになる。このあたりはうまくことばにできない。つまりこの胴体前傾の姿勢は、骨盤おこしトレーニングの過程として表れる。そのためこの時期に一本歯を履くと重心が前にあるため、立つことが難しいのである。そのため骨盤おこしトレーニングの提唱者である中村考宏さんは、二本歯の高下駄の前歯で歩くことを薦めているのだ。一本歯ではどうしてもナンチャンの言うように骨盤を後傾させて背筋を伸ばすやり方を選ばざるを得ないのである。もし骨盤がおきている人(前傾した骨盤に胴体がスッと乗っている人)なら、そのまま一本歯を履いて止まることも可能だろうが、そうでない人にとって一本歯はどうしても重心を後ろにもって行きやすいといえる。

腰を反る

ナ ンチャンが「多くの人は腰を入れてしまうので」と言いながら示した姿勢は、腰椎を反った姿勢だった。だから骨盤を後傾させてその反りを無くしたのである が、本来の「腰を入れる」は骨盤を前傾させること(本当はこれが骨盤がおきたということ←しつこい?)で、腰椎を前に入れることではない。ところでこの場面でナンチャンは骨盤をキュッキュと前後に動かしたのだが、実に柔らかく骨盤が動く。以前、ある治療家への骨盤おこしの説明で、骨盤を前傾、後傾とくり返し動かしたら、普通の人はそんな風に動けないんですよ、と言われたことがあった。骨盤を動かそうとすると腰椎の反りも伴ってしまうのだという。それだけ骨盤を動かす筋肉が緊張しっぱなしということだろうが、そういう人が一本歯の下駄を履くとむしろ姿勢が悪くなるってことがないのだろうか。まず股関節周りの柔軟性を取り戻してから下駄(一本歯でも二本歯でも)のトレーニングをした方がいい人もいると思う。

ナンバラバンバンバン

さて、ナンチャンの一本歯に乗った姿勢の場合、骨盤が後傾しているので股関節の動きが制限されてしまう。一本歯を脱いで立ったとき、あの姿勢のままで股関節の自由を取り戻すためには、股関節から上を少し前傾させる(軽いお辞儀)か、上体はそのままに膝を少し曲げて腰を落すかである。もっとも昔「笑っていいとも」で「ナンバラバンバンバン」と腰を振りながら踊っていたころから骨盤はよく動くようなので、いまもダンスのときは必要に応じて骨盤前傾をさせたりしているのかもしれない。

6.四回目の骨盤おこしセミナー 2008年10月26日

2008年10月26日の日曜日に、「骨盤おこしセミナー」があった。東京でのセミナーは早いものでもう四回目。午前の回と午後の回で、一日に二回のセミナー。講師の中村先生(Takahiro先生)には前回に続き、無理をしていただいた。次回は、土日の二日にわけるので、すこしゆっくりしていただけるだろう。なんて言いながら、日記に書かないままもう11月。この際、すこしずつでもアップしていかないと、次のセミナーの日になってしまう。今回は「腹圧」のこと。

腹圧をかける効果

「腹を脹らませて」とTakahiroさんは以前から言っていた。それも呼吸に合わせて脹らませたり凹ませたりするのではなく、ともかく「ウン」という感じで脹らませる。脹らむのは腹直筋なのだが、これが「弛む」わけではなく、本来の形がその伸びた筋肉の形なのだという。つまり多くの人は普段から腹筋を縮めすぎているわけである。まして「腹筋」といえば、ゴツゴツと割れたいわゆる「カニ腹」がカッコイイという風潮があり、さらに縮めて固くしてしまうのだろう。これは二の腕に力コブを作りっぱなしと同じな訳で、運動と言う面からみても良いことではない。さて、ここまでは以前にも聞いたことがあったが、今回は腹圧の新しい働きを知ることができた。それは、基本の「骨盤おこし」の運動である股関節から前屈していくときに、腹圧をかけて腹を脹らませて行なえば、腰から曲げてしまうことを防げるのである。また腹圧をかけておけば胴体は捻りにくくなる。だから腹圧をかけて動くようにすれば、股関節から動き出せるようになるということである。このことは甲野理論「捻らない、うねらない、 ためない」の「捻らない」と「うねらない」とには大いに関係してくるだろう。

腕立て伏せ(上腕の向き)

腕立て伏せについてこれまでの骨盤おこしレポートで書いた気がしていたが、検索してみると書いていないようだ。もっとも大切なのは最初の腕のポジションである。これは「お姫様だっこ」をしたときの腕の形、「小さく前へならえ」から手のひらを上に向けた形である。この形は、甲野先生がピアニストに示唆した腕の構えと同じだ。下げた腕の前腕を手のひらを上にして鍵盤の上に持ってきて、そこから手のひらを返して演奏の構えにする、というもの。この手の構えを拙著『技アリの身体になる』では「掬い手」として紹介している。水や砂を掬い取るような手付きだからである。で、腕立て伏せ。「お姫様だっこ」の腕のポジションで、手のひらを返して床につけ、腕立てを行う。こうすると背中が利いてくるので、背中のトレーニングになる。腕立ては「腕」を鍛えるものではないそうだ。これで思い出すのはロシア武術システマのプッシュアップ。両方を体験した人なら、必ずその共通性を感じるだろう。わたしはプッシュアップを背中の使い方を学ぶためのものだと思っていたので、Takahiroさんの腕立ての話を聞いた時(たしか第二回のセミナー)、なるほどそういうことだったのか、と膝を叩いた。いや叩かなかったけど、叩くほど納得した。もしシステマ式プッシュアップを腕でやっている人は、骨盤おこし式の構えからプッシュアップの姿勢になってみると、背中で上下することの意味がわかるだろう。骨盤おこし式でもっとも重要なポイントは、まず力こぶが前を向くポジションをとること。そこから前腕を曲げて上げていき、手のひらを上に向けた「掬い手」にする。そこで一旦手のひらを下向けに返し、そこから必要な腕の形にする。こうすると肘を左右に上げていって、脇を開いても上腕は力こぶが前を向いたポジションを維持できる。こうなると背中で腕を動かすことができるのである。このとき、手のひらを返さず、上を向けたままの構えで肘を上げると、力こぶは内側を向いてしまう。床に付く両手の幅を広くした腕立て伏せで確かめてみると、その違いがわかると思う。このことは、甲野先生の音楽家のための講座終了後にドラムの人とあれこれ試していてわかったことだ。『技アリ』本で紹介したときは、単に肩を上げずに腕を持ち上げるためぐらいしか思っていなかった。もちろん肩が下がったままだから背中が使えるのだが、そんなことは考えていなかった。いまではあらゆる腕の動作は、まず「掬い手」から手のひらを返す構えからはじめるのが良いと思っている。ただ「力こぶを前に向ける」という簡単なことが、実に人間の持っている自然な力を引き出すことになっていることに気付けたこと、同時に甲野先生の示した腕の使い方の深い意味を知ることができたことは、Takahiroさんのおかげである。

 

 

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