【感想文:しゃがむ力】バスケットボールのパワーポジション

『しゃがむ力』感想  田阪泰(中学校教員)

6年ほど前から、中村先生に股割りトレーニングをはじめとする様々なトレーニングをご指導いただいている。中学校の教員として男女バスケットボール部と野球部の指導をしているが、中村先生の下でトレーニングに取り組んできた経験は、生徒たちの動きの善し悪しを判断するに大いに役立っている。ただ、取り組んできたトレーニング自体を生徒のトレーニングとして導入は、わたしの実力の無さや一緒に指導をしている顧問との調整の難しさもあって、なかなか前へ進まなかった。

今回、この『しゃがむ力』を読み終えたのとほぼ同じ時期に三つのチームのうち女子バスケットボールの新チームの指導を主として担当することになった。この本に書かれているトレーニングの考え方の多くがバスケットボールの指導に応用できることと本校の女子バスケットボールの現状―初心者がほとんどで、身長が低く華奢な体形の者が多い―がただバスケのドリルやフィジカルトレーニングをこなすだけでは上達が難しいものであることなどを考慮して、本書で紹介されているトレーニングをバスケットボールの基本練習に組み入れることを決断した。  

バスケットボールの世界では、昔から「腰を落とせ」とよく言われる。実際に様々な局面で腰を落とす動作が見られる。ドリブルでゴールに向かうとき、相手のディフェンスを出し抜いてパスを受けるとき、ピボットをしてディフェンスのプレッシャーをかわすとき、オフェンスをフットワークを使って止めに行くとき…etc。

しかし、腰を落とすことを「腰を落とせ」と指導するだけだと、多くの場合「膝だけが曲がって尻の落ちた背中の丸い姿勢」や「頭や胴体を伏せて膝の伸びきった姿勢」になってしまう。もちろんバスケットボールに必要な機動性は得られない。ここから負の連鎖が始まる。不自然な姿勢でも動きまわれるように長時間のフットワーク練習をしたり、不自然な姿勢でも動けるように筋力トレーニングに力をいれたり→故障者続出。練習では低い姿勢を追及するが、試合では棒立ち→よくある言い訳は「NBAの選手だって腰落としてないじゃん」(誤解)。  

さすがに、これではおかしいと気づく人がたくさん出てきて、最近ではパワーポジションというものを指導する指導者が増えてきた。ところがここにも落とし穴がある。本書の195ページの例と同じように、「形」「ポーズ」にこだわってはいるが、そこに位置覚や重量覚などが伴っていないことが多い。また、ここでいうパワーポジションの多くがウエイトレーニンのポジションから借りてきたものである。ということで、「いい姿勢だけど動けない」という例がよく見られる。  

上記のような誤りは、わたし自身も通ってきた道である。そして、多くの指導者がそうであるように間違っていると気づいても、どう改善して良いかわからないとことがたくさんあった。しかし、中村先生のトレーニングメソッドを学ぶようになってから「こうすればよい」という方向性がおぼろげながら見え始めてきた。そして本書を読むことによって「こうすればよい」はより明確になってきた。

たとえば、繰り返し登場する「しゃがむということは最も高い立ち姿勢から最も低い立ち姿勢への変化」という言葉。座ったり寝たままでは、機動性を充分に発揮できない。腰を落とすのが、座ったり寝たりするのと同じように「なんとなく地面に身を任せる」だけの動作だったら、そこには機動性を妨げる要素があるはずだが、支持基底面を意識して「地面に立ち続ける」のであれば、低い姿勢になっても素早い動きは失われない。「腰を落としなさい」の声かけと共に、この考え方をかみ砕いて伝える。さらに86ページのイスから立ち上がるトレー二ングを体験させる。次に、その姿勢から足裏の感覚を変えずにドリブル、シュート、ディフェンスに必要な高さに上がったり下がったりしてみる。108ページから紹介されている足指やすねへの入力も併せて行う。そして、個別の技術練習に繋げて行く。この手順で技術の精度、スピード、力強さが短期間で高まっていった。

また、シューティングやパス練習の前に150ページからの「腕頭関節の回外と回内」や「擦る・なぞる」のトレーニングを入れる。これによってノーマークでも外していたレイアップシュートが短期間で安定して決まるようになった。ミドルシュートやパスについてはまだ課題が多いが、パスの指導でよく言われる「指先を上に向けてキャッチする」体勢が自然と取れるようになるなどの効果は表れてきている。

今後も、以上のような練習を継続するとともに、スクワットそのものもトレーニングして落下や反射を具体的な技術に繋げられるように生徒たちとともに試行錯誤していきたいと思う。

 

 

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