【感想文】しゃがむ力――スクワットで足腰がよみがえる(晶文社)

電気通信大学の阪口豊教授から「しゃがむ力」(晶文社)の感想とこれからの課題を示唆して頂きました。読者の方の参考になるかもしれませんので掲載の許可を頂きました。阪口先生ありがとうございました!

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このたびは著書をお送りいただきありがとうございました.御礼として,僭越ながら,いくつかコメントしてみたいと思います.

全体的な感想ですが,今回はいつも以上に読み応えがあるというか,楽しんで読むことができました.

前半は,先生がこれまで数冊の著書で議論されてきた内容がコンパクトに集約してまとめられており,体重を支えること,重心のこと,固有感覚のこと,足指の働きなどに関する先生の考えがよく整理されていると思います.

後半は新しい内容を含んだ部分ですが,「しゃがむ」という動作がいろいろな観点から検討されていて,まさに「研究成果」と呼べる内容です.職業柄の印象ですが,先生がいろいろなことを考え,試行錯誤していらっしゃる過程が読み取れて,面白く,私にとってもたいへん勉強になりました.特に,先生のこれまでのいろいろな話が頭の中で結びついて,理解が深まった気がします.

最後の反射を使った「しゃがみこむ・立ち上がる」の動作は,甲野先生の「人間毬」に相当するものだと思いますが,物理的な跳ね返り(ボールが床を跳ね返る作用)と伸張反射による筋力を組み合わせることで,随意的な力を使わなくても立ち上がれることを明記している点は明快だと思いました.

あえて今後検討していただきたいと思ったことをあげれば,やはり説明の細かい部分や用語の使い方でしょうか.先生とは以前から「日常的な言葉の使い方」と「専門用語としての言葉の使い方」の違いについてお話ししていますが,今回の著作では先生が言葉の使い方に注意を払っていらっしゃることはよくわかりました(注釈やかっこ書きの説明がそれをよく表していると思います).それでも,後半部分については,検討内容が新しいだけあって説明な不完全な部分があったように思います.

一つ例をあげれば,「腰」「腹」といった言葉が具体的に何を指すのかということがあります.これらの言葉は,個人が主観的に「腰」「腹」だと思っている箇所という意味で使ってもよいですし,「腰椎○番目から○番目」といった物理的箇所の意味で使ってもよいのですが,それぞれの文の中で「腰」という言葉がどういう意味で使っているのかというのが明確になるとよいと思いました.

それから,「腹圧」に関して背側と腹側の筋の働きの話がありますが,筋肉の収縮,短縮,伸長といった区別がいま一つわかりませんでした.結局,腹圧を上げるときに腹側の筋はどうなっているのでしょうか? 背側の収縮によってお腹が前に押し出されるので,腹側の筋が伸張するのはわかりますが,このとき腹側の筋が収縮しているのか(つまり,腹側の筋も短くなろうとしてお腹の圧力をさらに高めているのか),それとも,腹側の筋は活動せずに引き伸ばされるだけなのか(つまり,受動的に伸ばされるだけでゆったりしているのか),どちらでしょうか? 「お腹をへこませるのはだめ」についても,「お腹に力をいれて(収縮させては)いけない」という意味まで含んでいるのかどうか,と思いました.

ただ,この腹圧の部分,個人的には勉強になりました,背側の筋は背骨を支えるために働いているものと思っていて,「腹圧を上げるのにも背側の筋が参加する」という発想がなかったので...排便するときの力の入れ方という説明はまさに「目からうろこが落ちる」でした.それと,自分は巻き肩なので「肘の身体感覚」の部分も参考になりました.

そのほかにも読んでいていろいろと考えることもありましたが,とりあえずここまでにしておきます.さらなる進展が楽しみです.

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しゃがむ力――スクワットで足腰がよみがえる(晶文社)

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